「権威と力」
アメリカは20世紀中盤から世界の超大国として存在していますが、「権威」や「力」に対するアメリカ的な考え方と日本の考え方には大きな違いあると感じます。今週は、私の経験を振り返りながら、そんな違いについて考えたいと思います。
世界において、アメリカが唯一の超大国であることに疑問を投げかけるアメリカ人はほとんどいません。また多くのアメリカ人は、一国に世界の力が集中していることが適切であるかどうか、自問することはありません。しかし国内では常に権力や権威の集中に目を光らせています。例えばアメリカの三権分立は日本よりも明らかです(少なくとも理論上は)。Check and Balanceという言葉をアメリカではよく耳にします。どんなに人気のある大統領も、支持をしない集団からは常に「あの大統領を弾劾しよう」という目で見られています。イギリスの支配を逃れて建国されたという歴史的背景によるものか、「平等」を尊ぶアメリカでは、権力を持つものへのチェックが絶えず行われています。
これは日常生活にも反映されます。最近、日本でも行われ始めている医療の分野のセカンドオピニオンは、アメリカでは昔から行われていました。「他の医師の意見を聞くなんて、罹りつけの先生に悪い」と感じたり、「医者の言うことに疑問を抱くなんて」と思ってしまうのが日本人。逆にアメリカでは「医師」という肩書きは職業の分類でしかなく、医学については素人の患者が納得しなければ、とことんセカンドオピニオンを求めます。
授業を教えていても同じです。日本では先生の言うことをただ信じ、学生はノートを取ります。アメリカでは学生から容赦なく質問が飛んできます。「それは○○ではないのですか?」「先生は××と言いますが、私は△△だと思います」と言う風に。「先生の言うことは正しい」という概念は全くありません。
これにはプラスもマイナスもあります。思わぬ質問が学生から寄せられることで、考えもしなかったことに気づき、教えている内容をより掘り下げて扱うことが出来ることもあります。また、時に自分の勘違いに気づくこともあります。そもそも学生は「先生」という肩書きを日本人ほど大きな「権威」と捕らえていませんから、教える側も間違えを訂正することに抵抗を感じません。最近は日本の大学でも行われているようですが、アメリカでは昔から学期の終わりに学生が授業と教員の評価をしています。これは授業内容や教授内容の向上に非常に役立ちます。しかしその反面、先生との待ち合わせに平気で遅刻してきたり、授業中に平気で抜け出したりすることもあります。また学生からいい評価を得ようと、成績を甘くつける教員が生まれるのも事実です(実際、春学期に3名の学生を落第にした私は、「成績評価が厳しい」というコメントを学生から受けました。)。
スポーツの世界でも同様です。私はこちらでプロサッカーリーグの審判をしていますが、選手と審判員の関係には日本とは大きな違いを感じます。日本の多くの審判員が非常に強い態度で選手と接するのに対し、アメリカでは審判員としての責務を遂行しながらも、同じフィールドで走り回る仲間としての関係を作り出そうとします。例えばミスをしてしまったとき、日本の審判員はなかなかその場で失敗を認めることはありませんが、こちらでは「さっきはごめん。反則じゃ無かったよな。」と試合中に選手と話すことがあります。アメリカの選手はそのような審判に一層の信頼感を寄せます(今週の写真はそんな試合前の様子です)。
このように考えてみると、日本では権威とは上から与えられ、人はそれに従うことが求められます。逆にアメリカでは権威の候補となる人が上から与えられ、その本人の行動次第で、集団から権威者として認められます。多くの場合、日本の権威者がその地位を長い間保持するのに対し、アメリカでは常にチェックの目が光り、その地位を奪おうとする動きが盛んです。これは外資系企業のトップが交代する頻度を見てもわかるでしょう。
日本の社会も少しアメリカ的な考え形に近づいているのかもしれませんが、それでもやはり大きな違いを感じます。
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