INTERPRETATION

「 Black History Month 」

木内 裕也

Written from the mitten

 日本ではあまり馴染みがありませんが、アメリカでは2月が「Black History Month」として、アフリカ系アメリカ人の歴史と深いかかわりのある月とされています。各地で黒人史に関する様々なイベントが開催され、啓発的な運動も行われています。そもそもは1926年にカーター・G・ウッドソン(写真)がNegro History Weekというものを始めたのに遡ります。黒人指導者のフレデリック・ダグラスとリンカーン大統領の誕生日に合わせて、2月にしたとか。その後Negro History Week50周年を祝う1976年に、Black History Monthとして1ヶ月間に渡るイベントになりました。この1ヶ月間は地元のスーパーから、小中学校まで、様々な場所でアフリカ系アメリカ人の歴史に触れることができます。私の住むミシガン州East Lansing市でも、関連の映画が上映されたり、博物館に特別なコーナーが設置されたりしています。

 そこで今週は、このブログもその流れに乗って、現在のアメリカとアフリカ系アメリカ人の生活を紹介したいと思います。最近もっとも関心を浴びているのは、Barack Obamaイリノイ州上院議員。ヒラリー・クリントンニューヨーク州上院議員と共に、2008年大統領選挙への出馬を宣言している1人です。彼はケニヤ人の父と、カンザス州出身の母親の間に生まれました。ハワイで生まれた後、インドネシア、カリフォルニア、ニューヨークなどに住んだ後、現在はシカゴに拠点をおいています。アフリカ系アメリカ人として始めてHarvard Law Reviewという法律専門誌の責任者にもなった経験の持ち主。その輝かしい功績から、彼がどれだけ一般的なアフリカ系アメリカ人の生活を理解しているのか疑問を投げかける声もありますが、JetやEbonyといったアフリカ系アメリカ人を対象とした雑誌では高い評価を受けています。

 日本でも人気が高いヒップホップは、アフリカ系アメリカ人の間でも非常に人気です。1970年代にニューヨークで始まったヒップホップ文化ですが、最近では人種を超えた人気を集めています。特にラップ音楽(「ヒップホップ」はラップ、ブレークダンス、グラフィティなどを含める文化と定義されます)の最大の消費者は白人女性とも言われています。数年前に人気を得た映画、8 Mileもヒップホップ文化に関するものでした。その舞台となった8 Mileはデトロイト近郊に実在する地域で、私がデトロイトの空港に行く時には必ず通過する場所でもあります。

 また黒人指導者として日本で有名なのはキング牧師。彼の”I have a dream”を中学や高校の英語の授業で覚えた人も多いかもしれません。しかしその演説の前半で彼が奴隷時代からの差別に対し、アメリカ政府へ賠償を求めていたのはあまり知られていません。キング牧師は冒頭で”[W]e have come to our nation’s capital to cash a check.”と言っています。ここでのCheck(小切手)とは、Reparation(賠償・補償)を指しています。2枚目の写真は、アメリカで使われている多くの歴史教科書に登場する奴隷の家族です。

 アフリカ系アメリカ人の生活は数十年前に比べて平均して向上しており、差別も少なくなっていると言われています。しかしまだまだ厳しい現実も存在します。健康の面を考えてみると、黒人女性と白人女性では前者のほうがAIDSの感染率が25倍です。黒人のガン死亡率は白人の3倍。教育の分野では白人の落第率が9%に対して、黒人は18%です。また違法薬物を使用するアメリカ人の13%を黒人が占めるにも関わらず、薬物使用で刑務所に送られるアメリカ人の74%は黒人。黒人の子供14人に1人は、両親のどちらかが服役中です。メリーランド州では白人と黒人の道路交通法違反頻度が同程度であるにも関わらず、72%の職務質問が黒人を対象にしているというデータがあります。またホームレスの49%はアフリカ系アメリカ人。

 アメリカ総人口の13%を占めるアフリカ系アメリカ人ですが、まだまだ様々な点で難局に直面しているのが現実です。Black History Monthは4週間で終わってしまいますが、3月以降もアメリカ社会でアフリカ系アメリカ人の抱える様々な社会問題を解決しようという動きが継続するのを願わずにはいられません。デトロイトにあるアフリカ系アメリカ人の博物館(写真)では、今月以降も様々なイベントが継続して行われます。デトロイトにいらっしゃる機会があれば、是非訪れてみてください。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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