「アメリカの多様な視点」
まずはクイズから。以下にある人物の経歴を簡単に記します。皆さんも知っているはずの、アメリカ史では重要な人物です。一体誰のことを指しているでしょうか?
1、「奴隷制度に反対したアメリカ大統領。奴隷解放を目指す彼の姿勢はアメリカを二分し、大統領就任後には南北戦争が勃発した。南北戦争中には奴隷解放宣言によって、南部連合の奴隷を命じ、英雄的なアメリカ大統領としての名を確かなものとした。しかし南部支持者によって1865年に暗殺された。」
2、「アメリカ北部の産業基盤の優位性を守るためには、南部を従属化させる必要があった。南部にいた奴隷の兵力を北部の味方につけ、南部の軍力を弱めるために、奴隷解放を大義名分として南北戦争を引き起こすことを計画。北部が勝利した後は、経済基盤を維持するために約400万人いたアフリカ系アメリカ人奴隷をアフリカに排斥する計画をし、偽善的な大統領として知られている。」
前者はもちろんリンカーン大統領。後者も実はリンカーン大統領です。リンカーン大統領の南北戦争に対する政策、という点では共通していますが、視点と焦点が変わることによって、全く別人であるかのような印象を受けます。
なぜこの様な例を挙げたかというと、アメリカには様々な人種や文化が存在しているだけではなく、様々な視点や関心も存在しているからです。主流のアメリカ史の教科書には、第1に示したようなリンカーン大統領が書かれています。しかし多くのアフリカ系アメリカ人はより批判的な視点から彼の功績を捉えています。似たような例として、「文明の始まりはギリシャであり、ローマを通って欧米が発展した」と考える人々と、「文明の始まりはエジプトであり、ギリシャやローマはアフリカの一部であるエジプトから多くを学んだ」とする人々がいます。どちらが正しいということはできませんし、適切ではありませんが、個人の経験や価値観などに左右されるパラダイム(心の窓)によってひとつの事実が様々な形で理解されることがあります。これはアメリカにいると頻繁に感じることです。
日本でも人気があるヒップホップの文化。ある学生は格好のいい、流行の文化として捉えます。別の学生は民族音楽の商業化と感じ、必ずしもよいこととは考えていません。休暇を使ってメキシコのカンクン(アメリカ人の主流バケーションスポット)に行くことも、リラックスするための機会と捉えることもできますし、より批判的に捉えることもできます。学生と接し、授業の中で様々な意見を交換していると、思わぬ視点からのコメントに驚かされることがあります。アメリカの健康問題について話していたときのこと。アメリカ生まれの学生と、アフリカ出身の学生の間で「健康」に関する考え方の違いが明らかになりました。前者は「身体に菌や病気が無い状態を健康といい、病気になるとは身体の機能が働かなくなること」と言いました。後者の学生は「心と身体と精神のバランスが取れている状態を健康といい、そのバランスが崩れた時を病気という」と言いました。両者、もっともなコメントです。最近の日本は「癒し」が流行していますから、後者の意見に共感する人が多くいるかもしれません。しかし多くの人は前者の考えをしているのではないでしょうか? このように思わぬ時に当たり前と感じていたことや、誰もが同じ考えを持っていると想定したいたことが見事に、そして何度もいい意味で裏切られるのがアメリカの特徴かもしれません。
今週の写真はリンカーン大統領に関して出版され、最近話題になっている本(先月買って、まだ読んでいませんが)。そしてアメリカの社会をもっとアフリカ系アメリカ人に焦点を当てた社会にしよう、というAfrocentricityと呼ばれる考えを元に書かれた本の数々(こちらは読みました)。3枚目はTime誌の表紙となった女性の顔写真。様々な人種が融合するアメリカにおいて、今の典型的なアメリカ人は白人でも、そのうちこの女性のようにアジア、アフリカ、ヨーロッパなどの特徴が混ざった人がアメリカの主流になるというもの。ちなみに、この女性は合成写真で実在の女性ではありません。
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