「自己表現の背景にあるものは?」
アメリカ人に対する典型的なイメージとして、「自己表現が好き」というものがあります。喜び、悲しみ、怒りを日常生活の中でオープンに表現することから、「こんなことを言うと相手の気分を害すかな?」と日本人ほど深く考えずにものを言うことまで、例外は沢山ありますが、平均的に日本人よりは自分の意見や考えを表現する人が多い、というのはアメリカの特徴でしょう。人類学者はアメリカをコンテキストの低い文化と称し、日本をコンテキストの高い文化としました。コンテキストとは、個人間の共通理解とここでは言い換えることができます。日本は文化的に似た人が多いので、「阿吽の呼吸」ではないですが、あまり表現しなくても相手がこちらのことを察してくれます。「1を言って10を伝える」とか「沈黙は金」という表現が盛んに使われることからも分かります。逆にアメリカは様々な文化が入り乱れているために、「言わないと分からない」ということが多いです。もちろん、日本国内にも沢山の文化はありますし、アメリカの中でも共通の理解は存在しますが、ここでは全体の傾向としてみてみます。You need to speak upとは、なかなか意見を言わない日本人にアメリカ人がよく言う表現です。
この自己表現は選挙のシーズンになると一層明らかになります。自分が支持する候補者の名前が書かれたシールを車のバンパーに貼り、庭には小さな看板を立てます。個人が誰を応援しているのか、誰に投票しようと考えているのか、一目瞭然です。これは自分の政治的考えを表現することの少ない日本とは大きな違いです。
アメリカでも政治や宗教の話題は避けるべき話題として理解されていますから、余程気の知れた仲間の間でなければ込み入った政治の話をすることはありません。漠然とした話をしたり、アメリカ人の好きな権力者の批判(もちろん今の対象はブッシュ大統領)は頻繁に行われますが。それでも自分の考えの主張だけはする、というのがいかにもアメリカ、という感じがします。相手が何と考えていようと、自分はこの人を支持する、といった姿勢です。
また庭の看板や、車のバンパーに貼るシールだけではなく、候補者の名前やロゴが書かれたTシャツや帽子、トレーナーなどに身を包む人も多くいます。特に今回の大統領選挙ではオバマ大統領候補が様々な服飾品を販売し、それによる寄付を集めています。若者に人気のオバマ候補ですから、大学のキャンパスでは彼の名前が書かれた服を着ている学生を沢山目にします。逆にマケイン候補の名前が書かれたアパレルは数が限られています。
これらの自己表現は、必ずしも話し合いなどを通して相手の意見を聞こう、相手を説得しよう、という目的を常に持つわけではありません。お祭り好きの国民性を反映すると同時に、支持する候補者の名前や写真をあちらこちらに出すことで、自然に全体の支持率をアップさせよう、という意図はあります。しかし何より、自分の考えを公に主張することに大きな意義を見出しているように感じられます。
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