最終回
今回が、Written from the Mittenの最終回です。先日、ある学生が何かの授業の一環で大学の教員にインタビューをしなければならない、ということで、彼女からインタビューを受けました。その時のやり取りが、ある意味で私がアメリカで生活をするうえで、そしてアメリカの大学で仕事をしながら感じることの集大成であるように思いました。そこで最終回の今回は、そのインタビューの内容を基礎にして、話を進めたいと思います。
学生からの質問は、「学歴を教えてください」「研究分野を教えてください」といった一般的な内容からスタートしました。しかし、「学部生を教えていて難しいことはなんですか?」「新入生にメッセージはありますか?」「学部生を教えて何が楽しいですか?」などという質問を受ける中で、大学が実社会とのモラトリアムであるという批判の裏返しとして、非常にプラスの部分もあるのではないか、と感じました。アメリカの社会は日本以上に物質主義であり、成功主義であります。能力によって出世が左右される、また成功が経済的成功で認められるなどという傾向は、日本以上に強いものがあると言えるでしょう。もちろんそれだけがアメリカではありません。しかし歴史や社会学、心理学などの学問が「職にたどり着かない分野」「卒業後に高収入につながらない分野」として見られてしまい、それらの分野を学生が専攻しないどころか、必修科目としてとるべき授業に対して、学生が非常に低い意識を持っている現実があります。
確かにそのような気持ちになる学生の様子も分かります。自分の興味のある分野だけを勉強したい、大学で勉強してよい収入を得たい、という希望はあるでしょう。しかしたとえ歴史的建前であっても、大学の機能とは知の探求にあります。現在の社会の様子を考えれば、それだけしていればよい、というわけにはいきません。しかし大学の約4年間で、教養であったり、より幅広い知識を身につけることの重要性が、非常に軽視されているのは日本もアメリカも同じだと感じます。この点を、学生のインタビューで強調しました。卒業した社会人が「学生時代にもっと勉強しておけばよかった」とよく口にします。しかし「もっと歴史を勉強すべきだった」という人はいても、「もっと機械工学を勉強しておけばよかった」という人は少ないでしょう。なかなか学生にこのような分野の重要性を伝えるのは難しいですが、毎学期、何名かの学生からよいフィードバックを貰います。それを目にすると、少しは目的が達成できているかな、と感じます。
インタビューでは、大学1年生へのメッセージも聞かれました。大学生活を楽しむことが大切です。しかし同時に興味のある分野の専門家を求めて、研究室を訪ねるのもいいでしょう。私が教えているような大学は、Tier One Research Institutionといって、全米でもトップレベルの研究実績を持ちます。これは、それぞれの分野の一流の専門家が同じキャンパス内で仕事をしていると言うことです。中には研究中心で学部生と関わりたくないという教員もいますが、多くの教員は自分の分野に興味のある学生と話をすることを楽しみにしています。そしてその様な会話は非常にリラックスした雰囲気で行われます。教員と学生という堅苦しいイメージはありません。この様なアメリカの大学がもつ可能性、そして雰囲気に魅力を大きく感じます。
今回が、Written From the Mittenの最終回。これまでメールでメッセージを頂いたり、色々な形で「毎週読んでいます」と教えていただきました。ありがとうございました。
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