出版プロジェクト
大学で教えていると、Publish or Perishという表現を耳にすることがよくあります。一般的に、大学の教員は授業を教えているのがメインの仕事というイメージが強いですが、実際には例えば私の契約書を見ても、授業を教えることは契約の25%の内容でしかありません。研究を行い、その内容を発表したり論文として出版することが常に求められています。出版(Publish)をするか、研究の世界から身を引くか(Perish)するかという選択しかない、という意味でPublish or Perishといわれるのです。分野によって、学術誌に掲載される論文が評価される分野と、書籍がより評価の対象となる分野とあります。私の分野では定期的に学術誌で研究内容を発表することも重要ですが、書籍を出版することの重要性が非常に大きいです。多くの新しい研究者にとっては、博士論文を書籍化することが最初のステップです。
博士論文は書籍化するのに十分な長さ(単語数)があるのが一般的ですが、様々な編修作業が求められます。This book is very dissertation-like.(この本は博士論文のようだ)という形容を耳にすることがありますが、これは決して望ましいことではありません。博士論文を書いているときには、指導教員たちに対して十分なリサーチをしたことや、その分野の過去の文献に精通していることを示す必要がありますから、書籍では必要ではないLiterature Reviewといったことが必要になります。しかし書籍ではその必要はありません。場合によってはこのReviewを完全にカットして出版する、ということもあるほどです。
私も自らの博士論文を出版しようとしている真っ最中です。出版社にも色々あり、Trade PressやPopular Pressと呼ばれる一般書籍も出す出版社と、Academic PressやUniversity Pressという学術書専門の出版社があります。前者のほうが一般的な読者の目に止まる可能性がありますが、後者のほうがより格調高いとされております。University Pressの中でも、Harvard U.P.やOxford U.P.のように非常に有名なところから、それほどでないところまで様々。1冊目の学術書をこれらの出版社で出版できることはまずありません。私もHarvard やOxfordから1ランク下がる出版社と連絡を取り合いました。
まずは600ページ程度の博士論文を2ページに要約したAbstract、目次、サンプルの章などを担当者に送ります。そこでOKが出て、Full Manuscript Reviewに進むだけでも一苦労。Full reviewでは論文のすべてを送り、出版社が2名のReviewに論文を送り、出版の価値があるかどうかの判断が行われます。私もFull review用の論文を先日郵便で送りました。数ヶ月して返事が届くはずですが、OKの判断が出れば、Reviewerのアドバイスに従って一層の編集作業が求めされます。最終的に本が出るのは早くても2年後くらいでしょうか。Trade Pressであれば1年も掛からずに出版されることもあるのですが。
このReviewが行われている間にも、次のプロジェクトの構想を練らなければなりません。1冊目の出版がなされると、その後は比較的容易とも聞きますが、必ずしもそうとは限りませんから、早めに出版プロジェクトはアイデアを練ることが重要です。
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