INTERPRETATION

第66回 通訳の着こなし

寺田 真理子

マリコがゆく

「通訳」というのが、似合わなくなってきた。

そう感じることがあります。

洋服のように、「通訳」という服がよく似合って、ずっと定番で着てきたけれど、似合わなくなってきた。だけど、気に入っているから、捨てたくない。

だったら、アレンジして着こなせば?

スーツだったら、ジャケットだけ使って別のパンツと組み合わせたり。アクセサリーを変えてみたり。ひとつの着方にこだわらずに、自分なりにアレンジしますよね。

そんなふうに、「通訳」も自分に似合うように着こなしていけばいいと思うのです。

「通訳、かくあるべし」

通訳学校だと、まるで洗脳のように、「通訳っていうのはこういうもんなのよ!」と刷り込まれがちです。 常に通訳のことを考えて、何事も通訳つなげなければなりません。

かくいうマリコも、以前は「24時間、なんでも通訳に関することをしてなくちゃ」と思い込んでいるタイプでした。通訳以外のことをしていると、妙な罪悪感を覚えてしまうほど・・・。

でも、そうして生きていると、どんどん人間の幅が狭くなっていっちゃうんですよね。得られるものよりも、人として大切なものが、すごく損なわれてしまうんです。

通訳の仕事上、通訳スキルのことにばかりどうしても目がいきますよね。他の仕事よりも、人間的なスキルを育てることに目を向けなくてすむかもしれません。

でも、お客さまの身になってみたら、「ガツガツ通訳の腕ばかり磨いているけど、髪振り乱して雰囲気が険悪で、協調性がなくて一緒に居たくないタイプ」にわざわざお仕事を頼もうとは思わないですよね?

通訳の勉強も、仕事も大変です。でも、そこにはまり過ぎて「自分がどんなふうに生きていきたいのか」「自分がどんな人になりたいのか」を見失ってしまったら、もったいないですよね。

「教え込まれた通訳像」に、みんなが合わせることはないでしょう?

もっと一人ひとりが「通訳」を自分に似合うように着こなしていけたらいいなあと思うのです。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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