第62回 ハッピー通訳(前編)
「通訳者には、不機嫌な女が多い」
自分のことかと思ってドキッとした方、要注意です!鬼のような顔で仕事をしていないか、今すぐ鏡でチェックしたほうがいいですよ!
通訳コーディネーターだった頃、「どうして女性の通訳者って、みんなあんなにいつも不機嫌なの?ああはなりたくないなあ」と常々思っていました。ところが、自分が通訳者になってみれば、不機嫌街道まっしぐら!
仕事を続けていると、ある程度は仕方ないのかもと考えるようになりました。資料と勉強に追われる、すごいプレッシャーの中での仕事。周囲の無理解。しかもフリーランス。…そんな条件が重なれば、まあ、性格がゆがんでいくのも想像がつきます。
そしてもうひとつ。通訳者は、どこまでいっても「部外者」。その距離感が楽で心地いいっていう部分もありますが、自分はけっして主役じゃないんですよね。疎外感はやっぱりつきまとうんです。
通訳技術が磨かれる喜びというのは、たしかにあります。むなしいミーティングの通訳が多い中、技術の向上だけに目を向けて、そこに喜びを見出すことで自分のモチベーションを保つようにしていました。でも、それってなんだか悲しいですよね。
数を多くこなしても、通訳者としてやりがいを感じられる瞬間がそれに比例して多くなるというわけでもないんです。やりがいっていうのは、やっぱり、そのときの自分のパフォーマンスや、技術的なことだけでは得られないんですよね。つきつめていくと、どうしても、「何の通訳をしているのか」「何のために通訳をしているのか」ということが問題になってくるんです。
「会議通訳者として大御所になりたい」という目標を持っている人もいると思います。業界の中でのポジションがモチベーションになる人もいるでしょうし、難しい仕事をこなせるようになることで高い満足感が得られる人もいるでしょう。でも、わたしは「それはちょっと違うかな」と思うんです。
わたしは、通訳していて自分がハッピーじゃないと、嫌なんです。
「あらゆる分野を経験して、通訳者として登りつめたい」というより、自分の価値観に沿った仕事ができること、「この仕事をしていてよかった」と思える瞬間がたくさんあること。そっちのほうがやっぱり、わたしにとっては大切なんですね。
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