第60回 通訳と風邪
げほごほ。
通訳者が風邪をひくと、なかなか治りません。
考えてみれば当然ですよね。なんと言ったって、しゃべるのが仕事なんですから。おとなしくしていればすぐに治る程度の風邪でも、仕事でしゃべり通しのおかげで、こじらせてしまうこともあるんです。
「一括移行にはかなりのリスクが伴います・・・げほっ」
「やはり段階的に移行していくアプローチが望ましいでしょう・・・ごほっ」
「げほっげほごほっ!!」
なんていう具合に、ウィスパリングしてるんだか、風邪菌撒き散らしてるんだか。ありがた迷惑な存在です。
何年か前のことですが、ひどい風邪をひいた状態で長時間ウィスパリングをしていたことがあります。熱も39度近くて、話す言葉より咳の方が多い有様。おまけに、ウィスパリングならぬシャウティング。
当然ながら、こじらせました。何週間か咳が治まらなくて、喘息の人が使う吸入薬をもらう始末。吸入補助器までついているんですよね。
「喘息?吸入?なんか作家チック~。これって文壇の薫り?吉行淳之介みたい?万年筆と原稿用紙とか並べちゃう!?」
げほごほやりながらも、喜んで吸入補助器をデジカメ撮影するあたりが、マリコがマリコたる所以です。
いや、喜んでる場合じゃなくてですね。そんなことじゃ仕事にならないわけです。通訳をする以上、風邪をひいたりはしないようにちゃんと気をつけているんですが。
そもそも、その風邪って、ウィスパリングした相手からもらっちゃったんですよね・・・。
そうなんです。ウィスパリングのときって、こちらも近くでげほごほやって、通訳される相手にとってはいい迷惑ですが、逆に相手が風邪をひいていたりすると、集中攻撃を受けるようなものですね。ウィスパリングだから、離れるわけにもいかないし。
「風邪菌浴びまくり耐久戦」
そんな事態になってしまいます。風邪をうつされずに終えられるかどうかのほうが、きちんとウィスパリングできるかどうかよりも重要問題になってしまいます。
極度の接近戦での集中砲火なだけに、なかなか逃げ切れなかったりするんですよね・・・。
こればかりはなんとも。げほごほ。
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