第56回 社内通訳とフリーランス通訳-その4
いいことがたくさんあるように思える社内通訳。でも、もちろん、困ったところもあります。さて、どんなところでしょう?
まず、「社内通訳」というくらいですから、「社内」の人間なんですよね。フリーランスの通訳者に時々見られるような、「ワタクシ、通訳ですから関係ございません。勝手にあそばせ。ツン!」なんて態度をとるわけにはいきません。
会社って、どうしても細々とした面倒な手続きがつきものなんですよね。何かを申請するためにいろんな部署に連絡をとったり、書類を記入したり。ややこしい人間関係だって、まとめて引き受けなきゃいけません。「今日は誰とランチに行ったらいいんだろう」とか、そんな悩みももれなくついてきます。組織に所属する人間としての諸々があるんですよね。まあ、それもお給料のうちっていうことでしょう。
でも・・・通訳者って、あまり社会適合性がなかったりしませんか?あの、わたしだけじゃないですよね?ひとつの組織に所属するっていう、そのこと自体が苦痛になっちゃうんですよね。
しかも、通訳として脳を使っていると、なんだかその他の部分が退化してしまう気がします。よく、大学教授や技術者が、かなり社会性が欠落していることがあるでしょう?それに近いものがあります。なんていうことのない、ちょっとした社内の手続きひとつでも、それがものすごくストレスになってしまうんです。
そして、長く同じ社内にいると、飽きてくるのも否定できません。更に困ったことに、「文脈に頼って」通訳するようになっちゃうんですよね。純粋に言葉として理解できるんじゃなくて、「背景事情がわかるから通訳できる」という状態になってしまいます。
実際には、そういう事情がわかってはじめてちゃんと通訳ができるということも多いもの。雇う側にしたって、こういう通訳者は事情をわかってくれているありがたい人材です。でも、これって、通訳者本人にとってはちょっと困った事態です。
「ここでは通訳者として評価してもらえるけど、他のところで通用するのかな?」
そんな不安に駆られます。
それに、もっと困ったことがあるのです・・・。
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