INTERPRETATION

第45回 ねぇ、聞いてんの?

寺田 真理子

マリコがゆく

「あれ?せっかく訳してあげたのに、なんでポカンとしてるんだろう。聞いてなかったのかなあ?もう~、この人ってばマネージャーなのにいっつも上の空なんだから!ホントにしょうがないなあ。もっとしっかりしてもらわなくっちゃね。まあ、仕方ないから、もう1回訳してあげよう~っと!」

ミーティングのときに、外国人の参加者にウィスパリング通訳をする場合。社内通訳で、「日本人の部下が大勢参加していて、ひとりだけ外国人のマネージャーにウィスパリング通訳をする」という状況がよくあります。相手の表情を見ながら、「ちゃんと理解しているかな?」と確認しながら通訳を進めます。「うん、うん」とうなずいていれば安心。難しい顔をしていると、「これはわたしの英語に問題があるのかしら?それとも内容が気に入らないのかしら?」と悩みます。

たいていは何らかの反応があるものです。だけど、ときどき反応がなくて、ただポカンとされてしまうことがあります。そこで再度通訳するんですが、それでもまだ相手はきょとんとするばかり。

「もう、なんなの、この人?仕事する気あるのかしら!?」

そう思って憮然としていると、なぜか他の参加者までみんなきょとんとしてわたしを見ています。そしてその中のひとりがおそるおそる、教えてくれるるのです。

「あの・・・日本語でしたよ」

そうです。日本語を英語に訳すはずが、なぜか日本語を日本語に(?)して、外国人にウィスパリングしていたのです。そりゃ、きょとんとされますよね。

長時間通訳を続けてお疲れモードになると、こういうことがたまにあります。しゃべりかける相手を間違えていたり、通じないのに必死で何度も繰り返して、「ちょっと、聞いてんの?」って怒り出したり。あ、もちろん、逆バージョンで「日本人に英語で話しかけちゃう場合」もあります。

そういうときの「きょとん」とした顔は、見事なまでに外国人も日本人も共通なんですよねえ。そしてわたしが気づいた後に、みんなそろって爆笑するところもおんなじです。

でも、わたし、知ってるんです。これをやっちゃうのは、わたしだけじゃないのです。「やっちゃった」という話を、結構いろんな通訳者から聞いています。ということは、お客さまが目撃するチャンスも多いかも・・・?

目撃したときは、「ああ、そろそろお疲れなんだな」と思ってやっていただければありがたいですよね・・・。

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Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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