INTERPRETATION

第34回 「通訳=イタコ論」

寺田 真理子

マリコがゆく

「やっぱりこんな仕事向いてない・・・。もうたくさん、辞めたい・・・。」
そんなふうに思うことってありませんか?通訳という仕事が苦行でしかなくなってしまう時期。わたしも、ひどいときはそれこそ5分おきくらいにそんなことを考えていました。特にパフォーマンスが伸びなくて、スランプ気味のときなど。「なんでこんな仕事やってんの、わたし?」って考え込んで鬱々としていました。
それでも、続けてきた理由があるとしたら、やっぱり「イタコ」の瞬間があるからかなあと思います。

普段通訳をするときは、「言語」を理解して「言語」に置き換えている感じなんです。でも、そうじゃなくてスピーカーの「脳」からこちらの「脳」にダイレクトに伝わってくるときがあるんです。脳がシンクロしているというか、こう、「降りてくる」っていう感じなんですよ。

そういうときは、「わたしって、こんなに語彙の豊かな人間だったの?」って自分でびっくりするくらいパフォーマンスが違います。何かにとりつかれて話している感覚です。メモをとる手も勝手に動くような。まさに霊媒、イタコの領域です。

ただ、残念なことに、そんな瞬間は本当に数えるほどしかないんですよね。『デブラ・ウィンガーを探して』という映画で、ジェーン・フォンダもこういう「瞬間」のことを語っていました。彼女の言う「瞬間」はまたちょっと質が違って、撮影のスタッフやセットなどすべてのものと自分のそのときの芝居がうまく組み合わさって、言い表せないような気分を体験できるという話でした。だけど、それまで50本近い映画で数え切れないほどのシーンを撮影しても、そういう瞬間はやっぱり、8回くらいしかなかったそうです。

たとえ数えるほどしかなくても・・・別の次元に飛び込んだような感覚を味わえるものが、もしかしたら「天職」というものなのかもしれない、と思ったりします。

通訳から転職して巫女さんになるとか。引退した通訳が恐山でイタコとして活躍するとか。そんなのもあり、でしょうか・・・?

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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