INTERPRETATION

第33回 通訳の留守電

寺田 真理子

マリコがゆく

通訳のみなさん、自宅の留守電はどんなメッセージにしていますか?

「はい、○○です。ただいま留守にしております。御用のある方は、メッセージをお残しください。折り返しご連絡差し上げます。This is ○○ speaking. Please leave your message after the tone. I’ll get back to you as soon as possible.」

こんな具合に、日本語と英語の両方で留守電を設定している方が多いのでは?「英語しかわからない人がかけてくるから」というのもありますが、「ちゃんと通訳としてお仕事していますよ」という意味合いも強いかもしれませんね。

通訳エージェントでコーディネーターとして働いていたころに、よくいろんな通訳者の留守電を聞きました。たまに日本語だけしか入っていない人がいると、「この人、ホントに通訳として仕事をしてるのかしら?」なんてあやしんだものです。

女性通訳者の場合、たいていみなさん似たり寄ったりの留守電です。でも、男性通訳者には、ちょっと変わったものもあります。そもそも、「男性の通訳」自体が珍しいんですよね。通訳者の9割は女性といわれるくらいですから。

ある男性通訳者の留守電では、つながってからしばらくの間、彼のお気に入りらしきクラシック音楽が流れます。コーディネーターとして緊急手配でなんとか通訳を手配しようと勢い込んで電話をしたわたしに、容赦なく味わわされる優雅なひととき。ひとしきりクラシックを強制的に堪能させられた後、おもむろに流れる彼の声。「はい、○○です」。

・・・失礼ながら、普段の姿を見ているだけにクラシックとのギャップが大きすぎて、「笑っちゃいけない、笑っちゃいけない」と自分をこらえるのに必死だったのが懐かしいです。

そんなふうに、留守電ひとつでも通訳者の個性が出ていて、コーディネーター時代はいろいろと楽しませてもらったものです。携帯が普及していない時代だったので、通訳者も仕事の合間によく自宅に電話をして留守電チェックをしていました。電話のある場所をきちんと確認しておくのがコーディネーターの仕事のひとつでもあったんですよ。

最近では、エージェントさんがメッセージを残すのも自宅ではなくて携帯ばかり。留守電チェックのひそかな楽しみを味わえないのは、ちょっともったいない気もします。

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記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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