INTERPRETATION

第32回 地位あるあなたのために

寺田 真理子

マリコがゆく

社内通訳の場合、会社の中でも地位のある「えらい人」の通訳をすることが多いものです。「えらい人」なら、それにふさわしい発言をしてくれると期待したいところですよね。人生や経営、会社の方向性・・・示唆に富んだ含蓄のある言葉を聞きたいところ。

だけど、実際には「えらい人」がまともな発言をしてくれるとは限りません。ときには、あまりにもバカなことを言うので、「まさかこんなバカなことを言うはずがないだろう」と思って聴いているから理解できない・・・なんてこともあります。

そんなときでも、矢面に立つのは通訳をするわたし。聞き手も英語がわかる人なら、
「ああ、あいつはバカなことを言ってるな。あれを通訳するのも気の毒だよな」
なんて思ってくれるかもしれません。だけど、英語がわからない人だったら、
「いくらなんでもこんなバカなことを言うはずないよな。きっと通訳が間違えたんだ」
なんて思われかねません。

「なんでそんなバカなこと言うのよ!これじゃわたしがバカだと思われるじゃないのー!はずかしいからやめてよー!!」
そう叫びだしたくなるときもよくあります。

スピーカーが外国人上司、聞き手は英語がわからない日本人の部下たち・・・という状況でそういうことがよくあります。
「このおバカさん丸出しな発言を、上に立つ人にふさわしい、重みのある発言に一体どうやったら変換できるんだろう?」

通訳中も気が気じゃありません。真摯なまなざしで見つめる部下たちを前に、小学生の作文のような発言をされた日にはもう冷や汗もの。しかつめらしく、堅苦しい四字熟語などを織り交ぜてなんとか重厚さを演出してみたり。通訳以外の編集・美化作業に要する労力のほうがはるかに大きい気がします。

大幅な編集作業が必要なスピーカーが続いて、たまにまともな発言をしてくれる人に会うと、
「通訳だけすればいいって、なんてラクなんだろう!」
そう思えて感動します。

いいんだか、悪いんだか・・

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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