INTERPRETATION

第29回 ちょっとトリッキー

寺田 真理子

マリコがゆく

「ここまではよろしいでしょうか?」

ミーティングのときに、そんな確認をすることってよくありますよね?

たとえば、誰かが報告をして。その内容について参加者からひとしきり質問が続いて。ああでもない、こうでもないと、ちょっと盛り上がりを見せたのがやっと落ち着いて。それじゃあそろそろ、次の話題に移りましょうかっていうときに。

このときの「ここまではよろしいでしょうか?」って、「他に何か質問はありませんか?(もうないですよね?)」っていうことと同じだったりしますよね。特に、どんどん質問が出て盛り上がって、「他に?」、「他に?」、「他に?」、「他に?(もういい加減十分でしょ!?)」と訊いていったときなんかは・・・。

そう解釈しているもので、つい、こう訳してしまいがちなのです。

Do you have any other questions?

すると、満面の笑顔で大きく首を横に振りながら、外国人が答えてくれます。

“No.”

なにしろ元の質問が「ここまではよろしいでしょうか?」ですから。

「よくないよ!」

そう言われたのかと思って日本人側が一瞬固まってしまいます。

「え?なんで?ダメなの?なにもそんなに断言しなくたって・・・。な、何がいけないんだろう?」

そんなふうに、みなさん、にわかにおろおろします。そのリアクションを見て、「あ、しまった。やっちゃった!」と思いますが、まあ、誤解のないように訳しておけばなんとかしのげます。

「はい、結構です」

「Noって聞こえたんだけど・・・」とでも言いたげな、ちょっと不思議そうな顔をして日本人側のお客さまに見られてしまったりしますが、実際に外国人は「よろしい、結構」と思っているわけなので。意思の疎通は図れているんですよね。

それで片付くはずなんですが。

ときどき、どんな質問だったかすらも忘れてしまっていることがあります。すると、外国人の答えにつられて、わたしまで・・・。

「いいえ、だめです!」

力強く訳してしまいます・・・。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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