INTERPRETATION

第9回 ござりますれば

寺田 真理子

マリコがゆく

その昔、通訳コーディネーターとして会議に入っていたわたしの耳に、イヤフォンから聞こえてきた同時通訳。

・・・でござりますれば

あの時は、資料もぎりぎりにしか渡してあげられませんでしたよね。すごく大変だったんですよね。格調高い会議で、緊張されてたんですよね。

そんな事情を知りながらも・・・ごめんなさい!「ござりますれば?えぇ~?時代劇でも見てんじゃないの?ぷぷっ」なんて思いながら、笑っちゃいました。でも、自分が通訳になったいま、とても笑っていられません・・・。

なぜって、法学部卒なだけに、わたしが読んできた教材の大半は判例なんです。しかも、論述形式の試験に備えてしょっちゅう書く練習をしたおかげで、文章まですっかり影響されてしまいました。なにか書いていても、すぐに「蓋し」、「然るに」、「かかる事情に鑑み」、「・・・とするのが妥当であろう」などと、文章だけ読んだら「かなり年配のおじさん」になってしまいます。何十年も昔の人みたいです。

それでも、文章ならまだ、書き直せばすむ話です。だけど、話すときにはよくよく気をつけないといけません。そうじゃなきゃ、「されば、かくあらんと欲す!」なんて、やりかねません。同時通訳で追い込まれていたら、なおさらです。普段ストックされている語彙が、そういう時にポン!と出てくるものですよね。普段読んだり聞いたりする言葉にちゃんと注意しておかなくちゃと思います。

この間迷ったのは、「むべなるかな」。

どうなんでしょう、これ。普段の会話では使わないですが、書き言葉や、おじさまたちの会議の席で「通訳の言葉」としては使ってます。でも、そのときの会議には、お手伝いの学生さんも数名。10代の彼らに、「むべなるかな」はわかるのかしら?もしかしたら、「ござりますれば」と同じくらい遠い言葉なのでは?

「むべなるかな?なにこの通訳。時代劇でも見てんじゃないの?ぷぷっ」

なんて言葉が頭をよぎったわけじゃありませんが、とっさに「これももっともなことです」と言い変えてみたのでした。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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