INTERPRETATION

第7回 通訳メモの謎~逐次通訳編~

寺田 真理子

マリコがゆく

通訳のときにメモをとっていると、お客さまには「速記」のように見えるらしいですね。ときどき興味津々で覗き込まれたりもします。

このメモのとり方、ホントに人それぞれです。通訳学校では、「ページの真ん中に縦に線を引いて、ふたつに分ける」というのを基本形として習います。でも、わたしの場合は「話が長くなると何ページにもまたがってやりにくい」から3つに分けてます。そもそも分けたりせずに、「センテンスが終わるたびに四角を書いていくだけ」なんていう変わり種もいます。

書く内容も、文字が多くて文章に近い人もいれば、謎の記号が飛び交ってる人もいます。わたしのメモは、「漢文」に近いかもしれませんね。「我、欲す」みたいな。「言いたいこと」、「文章の構造」がパッとつかめるので。

たとえば、こんな内容の発言があったとします。

「お忙しいところお時間とっていただいてありがとうございます。メールでもご相談した件ですが、今回のシステム開発のスケジュールはかなりきびしいです。というのも、うちのメンバーが複数の案件を抱えていて、いっぱいいっぱいなんですよ。もともとリソースは不足してますしね。できたら1、2名ほど今回の開発専属で採用したいんですが、予算は大丈夫ですか?」

すると、わたしの通訳メモは、”t”time、「時間」timeで”t”、その横に「ありがとう」でハートマーク。
「感謝しております」、「うれしいです」などはハートマークにしてます。
「きびしい」を「キビ」、その横に棒3本を「かなり」、ハイライトの意味で入れます。「とても」、「非常に」もハイライトですね。「とても感謝しております」は「ハートマーク+棒3本」になります。
「∵」は「なぜならば」という数学記号。”mul”は”multiple”で、「複数」を表してます。「複」だと字画が多いので。
意味区切りごとにスラッシュを入れて、訳し終わったらそこに横線などを引いてどこまで訳したかわかるようにします。

この通訳メモは、あくまでも短期的な記憶を支えるためのもの。通訳を終えてからは、いくら自分で読んでもまったく意味がわかりません。よく、「さっきとってたメモで議事録作れないかなあ?」なんていうお客さまがいますが、それは無理というものです。「解読」希望なら、喜んでメモは提供しますけどね。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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