INTERPRETATION

第6回 ただいま、避難訓練中!

寺田 真理子

マリコがゆく

マイクが大好きです。マイクって、あれです。機材のマイクのことですよ。

何十人も参加する逐次通訳のミーティングでも、マイクがないことがあります。「マイク内蔵型」のやたら地声のでかい通訳さん(たいてい男性)はいいですが、そうでないとつらいものです。「自分が話す」のと「通訳する」のって、全く別物なんですよね。

自分が話すんだったら、別にマイクがなくても文句は言いません。大きな声を出せばいいだけです。でも、そうはいかないのが通訳です。逐次通訳って、「下を向いて話さなきゃいけない」ですからね。聴衆が前に座っている場合は、ちゃんとわかっているかどうか確認するためにも顔をあげるようにしますが、本当はずっと下を向いたままの方がパフォーマンスはいいはずです。下を向いて、メモを見てるわけですよね。だから、メモから顔をそらすと、集中力がそがれてしまうのです。

「下を向いたまま大きな声を出す」って、これはなかなか難しいです。大きな声を出そうとすれば、必然的に顔を上げることになります。だけど、自分の思考じゃなくて「人の思考」を追っているので、必死に頭の中に詰め込んでいるものが、顔を上げるたびにぽろぽろとこぼれていってしまいます。当然、パフォーマンスもひどいことに・・・。

そんなわけでなるべくマイクが使えるようにお願いするんですが、社内のミーティングの場合、マイクがないこともしょっちゅうです。わざわざそんな手配をするために手間暇やコストをかけるよりは、通訳に頑張らせてしまおうというお客さまが残念ながら多いもの。ある通訳さんなんかは、会社のパーティーでマイクの代わりに拡声器を使ったそうです。

「えー、なにそれ。避難訓練みたいじゃない!?気の毒~」

そんな話を同僚として笑っていたら。その後、別の会社で自分もやる羽目になりました・・・。

真っ赤な拡声器を使っての避難訓練、じゃなくて通訳。忘れられないシーンのひとつです。

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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