INTERPRETATION

第1回 そんな紙切れが、こんなにほしいの

寺田 真理子

マリコがゆく

覗いてみませんか?、あなたの知らない通訳者の世界。
普段、表では「語られないかも」しれない通訳の実態、 要望、ホンネ、ときどき不満を現役通訳者マリコがお届け。
時に過激に、時に優雅に。通訳者マリコは今日もゆく!

 

通訳のみなさん、仕事のためにいちばん必要なものはなんですか?

紙とペンがなきゃ始まらないし、手元の水も手放せません。電子辞書だって持っていきたい。でも、なによりも、これがなきゃ始まらないもの・・・それはやっぱり、「資料」ですよね

通訳になる前、通訳エージェントでコーディネーターの仕事をしていました。仕事の度に通訳さんたちにしつこく資料を請求されるのに閉口して、「なんでこの人たちは、こんな紙切れがそんなにほしいのよ!?」なんて思ってしまうこともありました。

でも、自分が通訳になった今、よーくわかります。そうです、「そんな紙切れが、こんなにほしいの!!

だって、通訳って、言ってしまえば「部外者」なんですよね。その業界にとっても、会社にとっても「部外者」。いくら日本語だって、「内輪の話」なんてわからないですよね。たとえば、金融の仕事をしている人がいきなり医学学会に行ってもわけがわからないでしょう?内部の人にはわかりきった当たり前のことでも、外部の人には「なに、それ?」の世界です

少しでも内部の人の考えがわかるためには、資料の助けが必要なのです。資料なしで仕事に臨むのは、地図なしで大海原を漕ぎ出すようなものだと思います。同じ実力の通訳がいたとしても、資料のあるなしでパフォーマンスにはものすごく差が出てしまいますよね。資料がある通訳が100点満点の仕事ができたとすると、資料がない通訳は30点くらいになりかねません。実力が発揮できない上に、下手な通訳だと思われてしまう、そのストレス。「あ~、もう!資料さえあれば!!」そんな思いを一度ならずされた方も多いでしょう。

単発の仕事のときだけでなく、社内通訳も、最初は資料との格闘です。慣れてくると、「この人に頼めばこの資料がもらえる」ということがわかってきます。いくら仕事に慣れても、違う部門の人が入ってきたり、新しい内容だったりすると、どんなサプライズがあるかわかりません。その場で困ることがないように、しつこーく資料をお願いします。「くださいね、絶対事前にくださいね!!」

でも、それだけしつこく頼んでも、「何もないんですよー」と言われて当日現場に行ってみれば、配布資料がどっちゃり・・・。悲しいことに、これもまたよくある事態です。そんな瞬間に、「聞いてないよー!」と暴れたくなるのは、きっとわたしだけではないはず・・・ですよね?

Written by

記事を書いた人

寺田 真理子

日本読書療法学会会長
パーソンセンタードケア研究会講師
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー

長崎県出身。幼少時より南米諸国に滞在。東京大学法学部卒業。
多数の外資系企業での通訳を経て、現在は講演、執筆、翻訳活動。
出版翻訳家として認知症ケアの分野を中心に英語の専門書を多数出版するほか、スペイン語では絵本と小説も手がけている。日本読書療法学会を設立し、国際的に活動中。
ブログ:https://ameblo.jp/teradamariko/


『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門』(Bricolage)
『介護職のための実践!パーソンセンタードケア~認知症ケアの参考書』(筒井書房)
『リーダーのためのパーソンセンタードケア~認知症介護のチームづくり』(CLC)
『私の声が聞こえますか』(雲母書房)
『パーソンセンタードケアで考える認知症ケアの倫理』(クリエイツかもがわ)
『認知症を乗り越えて生きる』(クリエイツかもがわ)
『なにか、わたしにできることは?』(西村書店)
『虹色のコーラス』(西村書店)
『ありがとう 愛を!』(中央法規出版)

『うつの世界にさよならする100冊の本』(SBクリエイティブ)
『日日是幸日』(CLC)
『パーソンセンタードケア講座』(CLC)

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