INTERPRETATION

第46回 Are you wearing your headphones while reading this article?

グリーン裕美

国際舞台で役立つ知識・表現を学ぼう!

今、イヤホンを付けてこの文章をお読みですか? 最近はどこに行ってもイヤホンやヘッドホンを付けている人を見かけます。移動中だけでなく、オフィスでもイヤホンを付けたまま仕事をする人が増えたと聞きます。同時通訳者には必需品なので、通訳者の間ではどの機種が良いかという話題もよく出ます。移動中にPodcastを聞きながら語学の勉強をしたり、ニュースを聞いたり、音声機能を使って次の案件の準備をする人も多いことでしょう。

デバイスの種類も実に様々。大きく分ければ、耳に入れるタイプのイヤホン(earphones)、耳を覆うヘッドホン(headphones)だけでなくワイヤレスのearbudsやマイク付きのheadsetなどですが、それぞれに色んなタイプがあって選択が難しい。英会話では単数形・複数形に要注意です。headsetは単数形で使われますが、他は左右2個あるという考え方で複数形が使われます。靴下(socks)やズボン(trousers)、手袋(gloves)と同じですが、日本人の間違いやすい点でもあると思います。

今回はイヤホンに関する興味深い記事を見かけたので紹介します。

The Economist誌のFebruary/March 2020号掲載の『Headphones have destroyed our sense of common purpose』によるとThe headphone epidemic marks a turning point in human history(ヘッドホンのまん延は人間の歴史における転換点となる)とのこと。epidemicは、コロナウィルスのニュースでお馴染みの「伝染病/流行病」ですが、a crime epidemicのように「一時的に多くの人に起きる」という意味で病気以外のことにも使われます。でも、violence(暴力)、unemployment(失業)、poverty(貧困)のようにネガティブな文脈で使われるので、the headphone epidemic(ヘッドホンのまん延)という表現からなんだか悪い予感がします。

筆者はヘッドホンがまん延する前をbefore headphones (BH)、その後をafter headphones (AH)と分けてこう説明しています。

Before headphones (BH) people who shared the same physical space also shared the same aural space, just as they breathed the same air. Now, after headphones (AH), they each have tailor-made soundtracks. (BHの時代には、物理的な空間を共有する人と同じ空気を吸う如く、同じ音を聞いていた。けれども、AHの時代になり、各自がそれぞれの好みの音を聞くようになった。)

電車の中を見渡すと、ドラマを視聴している人、音楽を聴いている人、ニュースを聞いている人(通訳者?)、色々ですね。

ヘッドホン革命のきっかけは、1979年のソニー・ウォークマン発売(The headphone revolution began with the Sony Walkman in 1979)。カセットテープの時代(懐かしい?!)からどんどん進化が続いています。

そしてヘッドホンの多用で難聴を患うことを医者は心配していますが、筆者は人々がどんどん孤立してしまうことを心配しています。(Doctors worry that headphones are damaging people’s hearing. I worry about the epidemic of social isolation.)

今度はsocial isolation(社会的な孤立)にepidemicが使われています。周囲の人と音を共有しないということは頭の中で考えていることが別。孤立感が高まり、ヘッドホンによって本来共有すべき感覚が失われている(Headphones have destroyed our sense of common purpose)と。

けれども最終的にはif you can’t beat them then you’d better join them.(長い物には巻かれろ)と筆者もヘッドホンを付けてがやがやした公共の場で自分を切り離しクラッシック音楽を楽しもうとはされたようです。

確かに移動中だけでなく、お店や家の中でもイヤホンを付けているとなんだか罪悪感を抱きます。お店では片耳を外すようにはしていますが、それでも聞こえにくいことはありますし、家の中でイヤホンをしていると家族に「話しかけないで」というメッセージを送っているようなものです。散歩しながらFlashcards Deluxeで単語を覚えていて、ふっと気が付くと車が割と近くにいた!ということもありました(汗)。

それでも時間を有効に使うためには今後もイヤホンを使い続けるでしょう。とは言うものの、たまには鳥の鳴き声や風の音に耳を澄ましながらお散歩したいなとも。また難聴にならないように音量に気を付けるのも大事ですね。

以上、今週はイヤホン関係を取り上げました。通訳者とは切っても切り離せないイヤホンですが、使い方についてちょっと気を付けるきっかけになれば幸いです。

 

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2020年3月10日

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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