INTERPRETATION

第34回 Brexit Update! イギリスはハロウィーンにEUを離脱するのか?!

グリーン裕美

国際舞台で役立つ知識・表現を学ぼう!

皆さん、こんにちは。現イギリス政権が公約として掲げてきた10月末のEU離脱日が刻々と迫っています。けれども、現時点(10/27)では、まだ11月1日にどういう状態になっているのか分かりません。ジョンソン英首相は、法律上しぶしぶEUに延期を要請していますが、EUからの回答は10月29日になる見込みです。

では、ここで今年の3月24日付第9回本コラムでのBrexit Updateと比較してみたいと思います。

もともとイギリスは3月29日にEUを離脱する予定でした。その5日前に書いた記事の内容が、現状(離脱予定日4日前)とあまりにも似ているのに驚いたような、驚かないような……。

ここで、当時4月12日までに離脱期限が延長された場合の5つのオプションを振り返ると…

  1. no deal (4月12日に合意なしの離脱)
  2. Cancel Brexit (EU離脱取り消し)
  3. Renegotiate (大がかりな再交渉。ただしEU側がどう対応するかは不明)
  4. Referendum(二度目の国民投票。ただし、世論調査によると今も意見は分かれている)
  5. General election (総選挙。野党第一党労働党はこれを望んでいる)

でした。

では、現在はどういう状況なのかというと。。。

  1. No deal(合意なき離脱)はありえるのか? 法律上はYESです。EUが延期を認めなければ10月31日にNo deal Brexit(合意なき離脱)となります。ただし、それはEUも望んでいないので、現実的にはありえないでしょう。
  2. Cancel Brexit(離脱取り消し)は? ジョンソン政権下ではありえなません。けれども、先が見えない以上、可能性がゼロではありません。
  3. Renegotiation(再交渉) 以前はTheresa May’s dealと呼ばれていたEUとの離脱協定案はジョンソン首相が再交渉した結果、バックストップ条項を削除し、関税同盟を出る代わりに北アイルランドとグレートブリテン島の間に実質的な税関の境界線を置く(つまり、北アイルランドとアイルランド共和国はやっぱり別れられない 参照記事)ことになりました。この再交渉された離脱協定案はBoris Johnson’s Brexit dealと呼ばれています。強硬離脱派(hard Brexiteers) が賛成しているのでTheresa May’s dealよりは支持者が多いものの、過半数を超える支持を獲得できるのかは難しい状況です。ただし諸事情により、10月31日までに可決されることはありません。
  4. 二度目の国民投票(second referendumまたはpeople’s vote)の実施は議会で否決されていますが、労働党の中には支持者もいます。ただ、国民の意見は二分されているので、「やっても亀裂が広がるのみ」という考え方が圧倒的です。
  5. では解散総選挙(snap election)となるのか? まずはEUが3カ月延期を認めてくれなくてはいけません (the EU has to grant three-month extension) 。また解散総選挙にするためには下院の3分の2の承認が必要です(2011年キャメロン政権時代に制定された議会任期固定法のため)。本コラム第20回で述べた通り、ジョンソン氏はMarmite character(第19回・第82回参照)で、嫌われてもいますが、大ファンも多くいます。それに比べると野党第一党・労働党のコービン党首は極左で毛嫌いする人が大半です。これほどまでに与党が困難に陥っていても、対する労働党の態度は不明瞭で人気はまったく高まっていません。一方、EU離脱反対を明確に訴えている自由民主党(Liberal Democrats, LibDems)への支持は高まっています。このような状況下、労働党が解散総選挙に賛成しないので、いくらジョンソン首相が望んでも政府が提案する12月12日の解散総選挙は難しそうです。

というわけで、ハロウィーン(10月31日離脱期限)前にBrexit Updateをしましたが、残念ながらまだ先はまったく見えない状況です。今週発表されるEUの離脱期限延期に対する回答 (flexible three-month extensionになるか)、それに対する英政府の反応(解散総選挙はあるのか)に注目です。

2019年10月27日

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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