第33回 「消費税」を英訳すると?
先週ついに消費税が10%に上がり、皆様の生活にも影響が出ていることと思います。通訳現場でも「消費税」のトピックは必須なのではないかと思いますが、どう訳していらっしゃいますか?
まずは consumption tax という答えが多いのではないかと思います。確かに「日本の」消費税の定訳は consumption tax で財務省の英語サイトでもconsumption tax となっています。
でも、だからって、常にconsumption tax と訳すのが適切かというと、そうでもないと思います。
日本の消費税に当たる間接税は米国ではsales tax(売上税)、欧州ではVAT(「ヴィー・エイ・ティ」と言うのが一般的だけどたまに「ヴァット」という人もいる。value-added taxの略で「付加価値税」が定訳)
「消費税」「売上税」「付加価値税」の違いについては税の専門家に任せることにして、ここでは訳語だけを検討したいと思います。
大事なことは、物を購入したときにかかる間接税は、米国ではsales taxと呼ばれていて、その他のOECD諸国ではVATと呼ばれているということです。
ですから、アメリカ人相手の通訳だったら sales tax、それ以外の国の人ならVATと言ったほうが会話がスムーズに進むかもしれません。
「国会」を相手によってはDietではなくCongressやParliamentと訳すのと同じ手法です。
今週見かけたBBCの記事では、見出しではconsumption tax、本文では sales taxが使われていましたが、Financial TimesではVAT、The Wall Street Journalではsales-tax、The Economistはsales taxとなっていました。けれども、記事によっては同じ新聞雑誌でも統一されていません。
ところでイギリスでは現在VATは20%です。私が渡英した1997年当時は17.5%。しばらく17.5%が続いていましたが、リーマンショック(英語ではLehman Shockとは言わず、ふつう2008 Financial Crisisという)の後、一時的に15%に減税され、2010年に17.5%に戻された後、2011年に保守党政権がさらに引き上げ20%になったという経緯があります。つまり過去10年で3度税率が変更されましたが、興味深いことにそれほどマスコミが取り上げることはなくほとんどの国民は税率が変わったことに気が付かなかったように感じました。というのも、すべてが内税 (inclusive) だからだと思います。
話がそれますが、「税制度は公平でなければならない(The tax system should be fair)」に反論する人はいないと思います。一方で「何が公平な税制度なのか(What is a fair tax system/What makes a tax fair?)」と問いかければ答えは十人十色でしょう。すべての人から同じ金額を徴収するのが公平なのか、富裕層から多くを徴収するのが公平なのか? 扶養家族をどの程度考慮に入れるのか? 難しい問題です。
イギリスでは昨年、子供の肥満を予防する目的で糖分の高い飲み物にSugar Tax (砂糖税)と呼ばれる税が導入されたことが話題になりました。健康促進が目的の課税ですが、このような飲み物(soft drinks)をやめられない子は貧困家庭に多いことから、公平な課税方法なのかどうか意見が分かれています。
というわけで、考え始めるときりがない「税」について少しだけ取り上げました。お役に立てば幸いです。
2019年10月7日
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