INTERPRETATION

第32回 教育にタブレット導入は有効か?

グリーン裕美

国際舞台で役立つ知識・表現を学ぼう!

技術の進化は社会を大きく変えつつありますが、遅ればせながら教育環境にも大きな変化が起きています。日本でも教育の情報化、デジタル化が促進されつつありますが、今回はThe Economist誌の記事からスコットランドでの取り組みを紹介します。

2019年8月29日付の記事 『Free iPad for Scottish pupils(スコットランドの生徒に無償でiPad配布)』によると、今年度(9月~)からグラスゴー郊外の公立中学校(a state secondary)で全生徒に一台ずつiPadが配布されるという。生徒はタブレット端末を自宅に持ち帰ることはできますが、アプリを生徒自身が入れることはできず、学校側が端末の位置情報などを確認することができ、不適切なウェブサイト閲覧ができないよう制限がかかっています(The tablets cannot download apps, are tracked by the school and come with a firewall to block off-limits parts of the internet, but the pupils can take the devices home)。

タブレット端末導入によって、デジタル・リテラシーが向上し就職に役立つだけでなく、情報共有や宿題・教科書のデジタル化も促進されます(tablets will improve digital literacy, preparing pupils for workplaces where tech is ubiquitous. They can be used to share information, set homework and replace textbooks)。

というと、投資の価値がありそうですが、過去にノートパソコンの配布で行われた調査によると、コンピューターの使用は増えても学業の向上にはつながらなかったようです(although handing out laptops increases computer use, it has no impact or even a negative one on attainment)。

そういえば、愚息の通った公立中学校でも長男の入学時(2009年)はノートパソコンの無料貸し出しが行われていましたが、次男の入学するころ(2011年)には「パソコンの貸し出し」から「各生徒がiPodを持参」に方針変更されていました。どちらも学校側が試行錯誤をする中での決定だったと思いますが、技術がどんどん進化し、新しいデバイスが開発される中で、いつどの程度の投資をするのかを決めるのは難しいことです。

無料配布の別のメリットとしては、家庭の事情にかかわらず、皆が同じ最新技術にアクセスできるということも挙げられています(it levels the playing field for children who do not have access to the latest technology at home and does so in a way that does not stigmatise those who most need the help)。

けれども、高価なデバイスの配布より、もっと高い教育効果を出せる低価格なプログラムがあるという批判の声もあります(Critics respond that buying expensive gadgets for all is a poor way to help these pupils, especially when there are cheaper programmes that have shown better results)。

私の友人がイギリスの2~3歳児の通う幼稚園で10年以上働いていますが、最近の子供たちの言語能力が明らかに低下していると懸念していました。最近入園する子供たちは生まれたときからタブレットやスマホが身近にあり、親は話しかけてあやす代わりにタブレットで遊ばせることが増えているためか、以前は2歳半の入園時にたいていの子供はある程度話せたのに最近はまったく話せない子も増えているとのこと。

愚息が小さい頃は幸い(?)タブレットがなかったので毎晩読み聞かせをしたのが懐かしい思い出ですが、私だって今だったら疲れているときは就寝時にタブレットを子供に渡してデジタル絵本の音声を聞かせてしまうと思います。でも、ときどき長期的な視野に立って「それで失うものは何か?」も考えて行動するべきかと改めて思います。

教育のデジタル化にはメリットも多い半面、安易にデバイスを渡して放っておくとマイナスの効果となりかねません。長所・短所を考えて、なるべく効果のある方法で使っていきたいものです。

2019年9月30日

 

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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