第28回 Elephant in the room
皆さん、こんにちは。今回は、現在スイス・ジュネーブで開催中の「ワシントン条約(CITES)第18回締約国会議」を紹介します。ワシントン条約の正式名称は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)」でCITES(サイテス)と略されます。同条約は、野生動植物の国際取引の規制を輸出国と輸入国とが協力して実施することにより、絶滅のおそれのある野生動植物の保護を図ることを目的としています。
締約国会議は2~3年おきに開催されていますが、今回の会議の主な議題の一つは象牙取引の規制強化(tightening rules on trade in elephant ivory)です。象牙の国際取引は1990年以降、原則として禁止されています。その成果もあって、アフリカゾウの生息数が回復していることから規制緩和を求める声が上がっています。地元の住民からすると、象の破壊的な行為に被害を被ることもあるようです。
けれどもThe Economist誌によると、2007年に象牙の取引を一部緩和した結果、8年間で象の生息数が30%も激減(参照記事)。理由は、一部合法化することで密猟(poaching)しやすくなる、つまり闇取引業者(black-marketeers)が違法な象牙(illegal ivory)を合法的なものだと偽って販売する(pass off) からです。最大の市場は、中国ですが、取引には日本もかかわっています。
将来的にはテクノロジーが野生動植物の保護に一役買うことが期待されています。ドローンによって密猟者を発見しやすくなり、DNA検査で象牙の出所が分かり、合法的かどうかも明らかになります。
いずれにしても現段階ではまだ絶滅の危機を脱したとは言えないため、エコノミスト誌は規制緩和(easing the ban)に反対しています。
ところでタイトルのElephant in the roomという表現はご存知ですか? the big elephant in the roomや there is an elephant in the roomとも言われますが、「誰もが認識しているけれども口に出したくない難題」という意味の慣用表現です。
また英語圏では象は記憶力がよいとされていて、Elephants never forget(ゾウは決して忘れない)ということわざもあります。「本当かな?」と検索してみると、Is it true that elephants never forget?という記事が見つかりました。
同記事によると、象は大きな脳を持ち、高い記憶力を駆使して自然界で生き延びているようです。ただし、象の優れた記憶力は年齢と経験によって養われます(an elephant’s amazing memory comes only with age and experience)。一方、年を取った大きな象というのは、密猟者のターゲットにもなりがち。このような象が密猟によって失われるとその象が持っていた知識も失われるという悲劇が起こります。
8月28日までスイスのジュネーブで開かれる、ワシントン条約第18回締約国会議。どのような合意がなされるのか注目です。
(令和元日の朝、南アフリカのサファリにて)
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