第22回 EU新たなトップ人事
皆さん、こんにちは。今週はイタリアのミラノからお届けしています。ミラノも連日35度。カラッとしているとは言え、それでも暑いです(汗)。
先週、EU(欧州連合)では次のトップ人事が決まったことがビッグニュースです。ただ、決まるまでの過程で大もめがあり夜通し会議をして3日もかかったことも大きなニュースとなりました。政党のバランス(右派・左派)、国の規模(大国・小国)、地域(西欧・東欧・北欧・南欧)、ジェンダーなどのバランスを取る必要があり、各国の意見も分かれます。
では、EUのトップ人事ってどんなポジションがあるのでしょう? 5つの役職がありますが、役職名と現任者の名前をいくつ言えますか?
もし一つも言えないとしても心配無用です! 恐らくイギリス人の9割以上が役職名を言えず、名前までちゃんと言える人は1~2%でしょう。仕事でEUにかかわっている人でなければEUのトップにどんなポジションがあって誰が就いているのか知らないのが普通だと思います。それほど、一般市民とEUはかけ離れているのです。これは、残留派か離脱派にかかわらず、熱心に「残るべきだ」「離脱するべきだ」と訴える人でも「じゃあEU大統領って誰?Do you know who the president of the European Council is?」とか「ドナルド・トゥスクって誰? Who is Donald Tusk?/What does Donald Tusk do?」と聞いたら黙るケースがほとんどだと思います。(私自身はロンドンメトロポリタン大学でEUについての授業がありますし、最近はEUでの通訳もしているので仕事上の知識と言えます)
少し話が逸れて失礼!
では5つの役職と現任者と後任者を紹介します。
1) the President of the European Council (欧州理事会議長)
「欧州理事会」とはEU加盟国の首脳が集まってEUとしての方針などを決定する会合で、そのトップは「議長」が正しい訳語です。けれども日本語ではときどき「EU大統領」という表現がされます。けれどもthe President of the European Unionというポジションはありません。現任者はドナルド・トゥスク氏(ポーランド人)。後任はシャルル・ミシェル現ベルギー首相。
2) the President of the European Commission(欧州委員会委員長)
「欧州委員会」とはEUの行政執行機関。実は上記「理事会議長」よりも強力な権限を持つとされています。ですから、このポジションに誰が就くかで特に各国の意見が分かれました。結局は現ドイツ国防相のウルズラ・フォンデアライエンが選出。初めての女性トップというだけでなく、ドイツのメルケル首相の後継ぎとも言われる人が就任したことで心穏やかでない人も多いようです。現任者はジャン=クロード・ユンカー(ユンケルという表記もあり。ルクセンブルグ人)。
3) the President of European Central Bank(欧州中央銀行総裁)
ECB(欧州中銀)は、ユーロ圏(the Euro Zone/単一通貨ユーロを使う19カ国)の金融政策を担う中央銀行。ECB governorと言われますが、現任のマリオ・ドラギ総裁(伊)は2012年の夏、ギリシャ債務危機の真っただ中、ユーロも崩壊するかと世界中が心配していたときに「ECBはユーロを救うためなら手段を問わない (we will do whatever it takes)」と発言し、欧州債務危機からユーロを救った人として知られています。後任は元フランス経済・財務相のクリスティーヌ・ラガルド氏。ラガルド氏は現IMF専務理事(the Managing Director of International Monetary Fund)として何度も訪日されていますし、テレビニュースで見かけたことがあるという人も多いのではないでしょうか。元シンクロナイズドスイミング選手でとてもきれいな英語を話されます。IMF専務理事としての評価は高いラガルド氏ですが、中央銀行総裁や経済学者としての経験がないことを懸念する声もあります。
4) the High Representative for Foreign Affairs and Security Policy(外務安全保障政策上級代表)
英語も日本語もとても長いタイトルで覚えるのが大変なポジションですが、EUの外務大臣に相当します。現任はフェデリカ・モゲリーニ氏(伊)。後任にはスペインのジョセップ・ボレル外務大臣が選ばれました。
5) the President of the European Parliament(欧州議会議長)
5月に行われた欧州議会選挙(参照記事)で選ばれた議員のトップ。現任はアントニオ・タヤーニ(伊)。後任もイタリア人、元ジャーナリストのダビド・サッソリ氏が選ばれています。
以上、EUのトップ人事を紹介しました。4) 以外は英語のタイトルはPresidentですが訳語は様々なので気を付けないといけませんね。ちなみに今朝通訳した某国際組織の会議では「会長」もPresidentでした! トップ人事が最終的に決定するまでは、まだ議会承認など正式な手続きを踏む必要がありますが、2)欧州委員長と3)ECB総裁、4)上級代表は11月1日、1)欧州理事会議長と5)欧州議会議長は12月1日にバドンタッチすることになります。ここでお気づきかもしれませんが、イギリスのEU離脱の期限が10月31日となっているのはハロウィーンとは関係なく、「新しい人事体制が始まる前に出て行ってくださいね」という理由で設定されています。ですから今回の人事選出に関してイギリスは参加していません。Brexitは少しずつ現実化しています(whether you like it or not…)。
2019年7月7日
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