INTERPRETATION

第16回 Brexit Update!  メイ首相辞任(欧州議会選挙)

グリーン裕美

国際舞台で役立つ知識・表現を学ぼう!

皆さん、こんにちは。今週はもともと欧州議会選挙(European Parliament election)を取り上げる予定でいました。EU加盟国にて5年おきに行われる議会選挙が5月23日~26日に予定されていたからです。各加盟国がそれぞれの選挙法に基づいて実施するので投票日が少しずれています。イギリスでは投票日は従来から木曜日と決まっており、早々と23日に実施されました。けれども28加盟国中、21カ国では最終日の日曜日が投票日。結果発表はすべての投票終了後なので執筆時点(26日午前)ではまだ結果が出ていません。

Brexitに関するこれまでの流れは、こちらCNN 10でうまくまとめられています(日本語版もあり)。この動画では、「そもそもEUとは?」という基本事項から現在EUが抱える問題までを4分間強で凝縮して説明しています。

一方、メイ首相はなんとかEUとの離脱協定案を議会で通すために2度目の国民投票の可能性に言及したことで、非難が殺到し、修復不可能なレベルまで急激に状況が悪化。欧州議会選挙の投票日翌日24日の朝、辞任表明をすることになりました。

BBC Brexitcastでは即日次のようなタイトルで新エピソードが配信されました。

TREXIT

The PM finally chucks in the towel. There are Maybot tears, Cabinet crocodile tears and definitely no whistling

上記の英語表現、一つ一つの言葉は中高生レベルですが、これを理解し、訳すとなると慣用表現の知識だけでなく背景知識も必要になります。

1.TREXIT:これはピンと来た人も多いかもしれません。Theresa(メイ首相のファーストネーム)+Exitの造語で「テリーザ・メイ首相辞任」。ここでのExitは「EU離脱」ではなく、「首相の座を降りる/退陣」。

2.PM:Prime Minister(首相)の略

3.chuck in the towel:「敗北を認める/白旗をあげる/降参する」の意の慣用表現。chuckはthrowと、towelはspongeと置き換え可。「タオルを投げ入れる」というのは、もともとボクシングで選手がもうこれ以上戦えないと試合放棄するときに使われた印というのが語源。

4.Maybot: (Theresa)May + (ro)botの造語。メイ首相は就任間もないころ、Brexit means Brexitとか、strong and stable (government)など同じことをロボットのように繰り返し、あまり人間味を見せないと批判されMaybotと揶揄されるようになりました。そのロボットのような首相が辞任宣言で最後に涙を見せたと話題になっています。

5.crocodile tears: 直訳は「ワニの涙」ですが、「ウソ泣き/空涙」の意。ワニは実際獲物を食べるとき涙を流すそうです。でも、エサになった獲物に同情するわけでもウソ泣きしているわけでもなく、ワニの体の構造上食べ物を咀嚼すると自然に涙が流れるとか。ここでは「Cabinet(閣僚)は悲しいふりをしている」の意。

6.no whistling: whistleは「口笛を吹く」ですが、前キャメロン首相が辞任発表の後に口笛を吹きながら首相官邸に戻ったときのことと比較しています(動画参照)。

英語表現の面白さを訳に出すのは至難の業。意味だけ簡潔に伝えると以下のようになります。

英メイ首相辞任

首相、ついに敗北宣言。ロボットのような首相の目にも涙。閣僚は空涙を浮かべる。(前首相のような)口笛はなし。

 

また次のようなジョークも辞任宣言直後に耳にしました。

The 7th of June will be the end of May…

幸いプライベートの場で聞いたので訳さなくてよかったのですが、もし通訳現場だったらどうしていたかなと考えました。皆さんならいかがなさいますか?

拙訳例は以下です。

例1

6月7日はMayの終わり、つまりイギリスのメイ首相が辞任するということですが、英語のMayには「5月」という意味もあり、それが6月の直前の月ということもあり、「この日が5月の終わりになる?」というちょっとした混乱を招くジョークであります。

(長すぎ...)

例2

6月7日にイギリスのメイ首相が辞任します。

(ジョークの部分はあきらめる...)

例3

6月7日メイ首相辞任に関するジョークです。

(説明は省いて、一応ジョークがあったことだけ伝える...)

ジョークや慣用表現の訳は難しいですね。同通か、逐次か、どういうタイプの会議・会話なのか、聞き手の状況・知識などで訳し方が変わりますが、他にいい案があれば、ぜひ教えてください!(関連ツィート

ところで正確には6月7日に辞任するのは保守党の党首。首相の座を降りるのは後任者が決まってから(7月末)です。いずれにしても現在訪日中のトランプ大統領夫妻を6月3日~5日に国賓としてお迎えした後に辞任することになったようです。

Brexitを実現させるために3年弱全力を注いできたメイ首相。結果を出せずに辞任となり残念です。

以上、Brexit Updateでした。

まだ当分Brexitの話題が続くことになります……。

2019年5月27日

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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