INTERPRETATION

第14回 南アフリカにおける教育

グリーン裕美

国際舞台で役立つ知識・表現を学ぼう!

先週、南アフリカの大統領選についてお伝えしました。5月8日に予定通り選挙が行われ、与党アフリカ民族会議(ANC)が過半数を獲得し、現職ラマポーザ大統領が再任されました。けれどもANCの得票率(the ANC’s share of the vote)は初めて60%を割り、投票率(turnout)も前回の73%から65%に下がり、与党への支持が薄らいでいることは明らかです。その理由としてはズマ前大統領時代に汚職(corruption)が相次ぎ、経済が低迷、失業率の増加などが挙げられます。そこで、今回は「失業/就職」に至る前の段階、「教育」について取り上げます。

2019年4月25日号のThe Economist誌では南アフリカが特集として取り上げられ、教育に関する記事も掲載されました(参照記事)。

まず大見出しはSouth Africa’s youngsters are let down by a lousy education system.
(南アの若者、お粗末な教育制度に失望)

・「若者」というとyoung peopleという英訳が思い浮かぶかもしれませんが、youngstersもよく使われます。
・let down:「(期待に応えられなくて)失望させる」。disappointと同義。
・lousy: ひどい、terrible, horrible, awful, of very bad qualityの意。「ラウズィ」と発音

そして小見出しはThe government is hostage to the biggest teaching union.
(政府、教職員組合相手に打つ手なし)

・be hostage to – : hostageというと「人質」の意ですが、be hostage to – で「~に束縛されて自由にできない」の意。
・teaching union: 教職員組合。

南ア最大の教職員組合The South African Democratic Teachers Union(南アフリカ民主教職員連合、SADTU)の政治への影響力があまりにも強いので、汚職、わいろ、不正がまかり通り、教育を台無しにしているとのことです。

子供たちが学校に行っても、教師がいないことは日常茶飯事。ひどい場合は、教室のドアが施錠され、児童が中に閉じ込められるそうです(they [children] have been padlocked inside)。

当然ながら全体的な教育レベルが低く、小学4年生の約8割は読み書きができず、5年生の61%は整数の足し算引き算ができない(Nearly 80% of children in grade four (9- or 10-year-olds) cannot read and understand sentences in any language; 61% of pupils a year older cannot add or subtract whole numbers)という結果が出ています。

アパルトヘイト政策の名残があることは確かですが、「問題は資金不足ではない」と同記事は指摘しています(The problems of South African schools are not for lack of money)。公的教育費の対GDP比率は6%とOECD加盟国の平均値を上回っています(Public spending on education is more than 6% of GDP, higher share than the average in the OECD club of mostly rich countries)。

こちらのサイトによると、南アは世界ランキングで27位。イギリスは36位、フランス37位。教育水準が高いことで知られる日本はなんと114位。

では、その潤沢な資金がどこに行っているのかというと、わいろや汚職。現金や牛と引き換えに職員が採用されているのです。このような形で採用された教師は教育にまったく関心がない、そもそも教員の資格もなく、教える気がない人も多いようです。同記事で取り上げられた学校では教師7人のうち職場に現れたのは3人だけでした(Just three of the seven teaching staff have turned up for work)。

再任されたラマポーザ大統領は、教育改革も訴えており、エビデンスベースの読み書き集中講座(intensive evidence-based reading programme)を導入すると提案していますが、教職員組合の在り方を抜本的に変える必要がある(ultimately a better education system requires the president to take on the unions)とエコノミスト誌は訴えています。

以上、南アフリカの教育事情について取り上げました。今年8月にTICAD 7(第7回アフリカ開発会議)が横浜で開催されるのを前に、アフリカの事情について考えるきっかけとなれば幸いです。

南アフリカの新政権が教育改革に成功し、子供たちが学びの楽しさを実感しながら成長し、学びを生かして職に就ける環境が整ってほしいなと思います。同時に、学べる環境に生まれ育つことを当たり前に思ってはいけないとも感じています。

2019年5月13日


(バスの中から見かけた南アフリカ、ヨハネスブルグ郊外の小学校)


(幹線道路脇、地元の住民に野菜を販売している露店と若者)

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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