INTERPRETATION

第12 回 まだ人間の通訳者が必要とされる理由(Why human interpreters will not be replaced any time soon)

グリーン裕美

国際舞台で役立つ知識・表現を学ぼう!

皆さん、こんにちは。4月も中旬になりましたが、イギリスでは朝は氷点下まで気温が下がるなど真冬のような寒い日が続いています。それでも日照時間が長くなったのが嬉しいです。Brexitは、4月12日から10月31日(ハロウィーン)まで延長になり、いわゆる合意なしの離脱(no deal Brexit)の可能性はほぼ回避されました。英議会が離脱案を承認すればそれよりも早く離脱できるという柔軟性のある延長なのでFlextensionとも言われています。

Brexit Updateは以上で、前回の続き第23回SCIC Universities Conferenceを取り上げます。

音声翻訳ツール、通訳アプリ、AI通訳、多言語音声翻訳システム、通訳機など呼び方は色々ありますが、とにかく自動翻訳・通訳の技術がかなり進化していることがよく話題になります。ポケトークのような専用のデバイスもあれば、Voice Traのようなアプリもあります。通訳現場でお客様に見せていただいたことも何度かありますが(苦笑)、幸い「これがあるから帰っていいよ」とは今のところ言われていません。。。

こういう話題になると、私たち通訳者・翻訳者は将来の仕事の需要が心配になります。先日のSCIC Universities Conferenceでも通訳分野におけるテクノロジーの発達についてはかなり話題になりました。どのくらいまで技術が進んでいるのかという話題とともに結論としては “Human interpreters will not be replaced any time soon”、つまり当分は私たち人間の通訳者が必要とされるそうです(やれやれ)。

その理由としては以下が挙げられていました。

It is because many elements are hiding behind words such as logic, intention, feeling, cultural references, joke, irony and cynicism.

言葉の裏には、論理、意図、感情、文化、ジョーク、皮肉など色んな要素が隠されているため、それを機械が訳すのは難しい。

また言い間違い(slip of tongue)もあれば、イントネーションやボディランゲージなど言葉以外の表現(non-verbal communication)もあり、行間を読む力(what’s not said)も試されます。また発言者やお客さんの気持ちや立場を理解することも大切です。

このような機械にはできないレベルの価値を提供することができれば人間の通訳者はまだまだ必要とされるということです。

また音声認識(voice recognition)や自動音声(text to speech)の技術を必要とする通訳は書き言葉の翻訳よりも実用化が難しくなります。

音声認識と言えば、先月のイチローの引退会見ではネットテレビでAI字幕が使用されリアルタイムで文字化されたそうですが、「プロ」→「風呂」、「ファン」→「パン」など間違いが多かったと話題になっていましたね。これが自動翻訳・通訳にも使われていると「プロ」→bath、「ファン」→ breadと訳されることになるので、人間にはありえない訳ミスを犯すということです。

またBBCでも先週これに関連した問題が起きました。仏マクロン大統領のフランス語の発言を最初は英訳した文字が表示されていたのに途中から「Speaks French」だけに切り替わったのです(関連記事)。

このようなニュースを聞くとプロ通訳者としては大人げなく、ちょっと得意げに感じてしまいます(笑)。

ただ、一方で「”多少は間違っていてもいいから安価で通訳を雇いたい” というクライアントならAI通訳を選ぶだろう」、という発言もSCIC Universities Conferenceで聞かれました。

今後ますますグローバル化が進むことは間違いないし、英語だけでなく多言語でのコミュニケーションの機会も増えるでしょう。語学を生かした仕事の需要は増えるとは思いますが、通訳に関しては機械に任せる分野と高いレベルの人間の通訳者が必要とされる分野に二極化される日が来るのではないかと思います。

その日に備えて、人間にしかできないサービスは何かを考え、それを提供できるようにし、同時にテクノロジーを積極的に取り入れながらInterpreter 3.0 を目指したいと思っています。

2019年4月15日

 

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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