INTERPRETATION

第6回 通訳機の時代は間近(Is the era of artificial speech translation upon us)?

グリーン裕美

国際舞台で役立つ知識・表現を学ぼう!

最近は国際会議でも第四次産業革命(The fourth Industrial Revolution)やIndustry 4.0(インダストリー4.0)、人口知能(Artificial Intelligence/AI)がテーマとしてよく取り上げられますが、その中でも特に耳がダンボになって通訳をするのは自動翻訳や通訳機の話です(すみません。「耳がダンボ」は死語ですかね。。。)

今日は2019年2月17日付英The Observer紙の記事、”Is the era of artificial speech translation upon us?”を紹介します。

まずタイトルですが、いわゆる「通訳機」がartificial speech translationという言葉が使われているのが興味深いです。日本語では「翻訳」は「書き言葉の訳」、「通訳」は「話し言葉の訳」ということで浸透していますが、英語のinterpretは「解釈する/説明する」という意味でもよく使われるし、そもそも英語圏では「通訳」の必要性が少ないからか(?)理由はともかく、英語ではtranslate(翻訳)interpret(通訳)の違いが一般の人には理解されていません。ただし、業界用語では、translatorは「書き言葉を訳す人」、interpreterは「話し言葉を訳す人」と定義されています(ITI参照)しtranslationは「翻訳」interpretingは「通訳」の意で使われます。けれども業界紙ではなく一般誌に掲載された、この記事では「通訳」に当たる言葉として speech/voice translation が使われています。

通訳機は、イギリスよりも日本のほうが進んでいるので、日本にお住いの皆さまはポケトークなど、既に試された方も多いかもしれません。日本からイギリスにお越しのお客様で何人かがお持ちになっていたので、ドキっとしたことがあります。ある程度役には立つようですが、幸い「通訳不要」とは言われませんでした。けれども、だからといって安心しているのではなく、常に最新の技術を学び、なんとかそれに勝てる能力を保ちたいと思っています。

では同記事を参考に通訳機の長所と短所について取り上げます。

長所としては、まずは「気軽に使える」ことではないでしょうか。わざわざ翻訳者や通訳者にお金を出すことはないけれども「手軽に使えるなら使う」という需要はかなりあると思います。まずは海外旅行先でのホテルやレストランの会話が例として挙げられますが、実際、自動翻訳のデータベースによるとI love youやYou have beautiful eyesなどのロマンチックな表現の検索も多いようです。やはり相手の言葉で愛をささやくというのは愛情を示すということでもあるのでしょう。昔から「モノを売りたければ客の言葉を学べ」と言われたものです。

また通訳機のおかげでガールフレンドの母親と初めて話したとか結婚している夫婦の間でも会話が盛り上がるようになったなどという喜びの体験談もあるようです。

このような目的の場合、通訳機が役に立つようです。

一方、日本や中国では通訳機の売り上げが急増しているけれどもThere’s still a long way to go(まだまだ先が長い)とも書かれています。現在はビジネス用に音声認識、翻訳の精度、所要時間を改善するよう開発が進んでいるようです。ただし、Professionals are less inclined to be patient in a conversation。忙しいビジネスパーソンに受け入れられるレベルまではまだ改善されていないようです(やれやれ)。

また次のような懸念があります。

1)noise(騒音):機械の開発は研究室などの静かな環境で行われることが多いけれども実際の利用は駅の構内など周囲が騒がしいこともあり、デバイスが必要な音声だけをうまく聞き取れるでしょうか。

2)イヤホンのシェア:イヤホンを必要とするデバイスでは他の人が使ったイヤホンを使用するのに抵抗がある人も多いようです(ただし、これはデバイスが普及して誰もが専用のイヤホンを持ち歩くようになれば解決できるという意見もあり)

3)文化的な配慮:日英通訳をしている皆さんならきっと次のようなご経験があることでしょう。例えば「鈴木宏部長」が話題になるときに日本側は「鈴木部長」(または「部長」のみ)と言うのに対し、相手側は単にHiroshiとファーストネームのみ。そこで気の利く通訳者ならHiroshi→鈴木部長、鈴木部長→Hiroshiと訳したりします。このような問題は日英だけでなくドイツ語<>英語など他の異文化交流でもあります。通訳機にもこのような配慮が取り入れられる日が来るでしょうか。

4)リップリーディング:「読唇術」とまでいかなくても私たちは無意識のうちに相手の唇の動きを見て、ある程度の内容を理解します。通訳の際に、話し手の顔が見えないと通訳しにくいという経験は皆さまもおありではないでしょうか。いくら合成音声が人間の声に近づいても唇の動きまでまねることはできないと考えられます。

日本でも「自動翻訳で英語学習が不要になるのか」という議論がありますが、同記事ではMaking the effort to learn someone’s language is a sign of commitment, and therefore of trustworthinessと書かれています。(自動翻訳がある時代だからこそ、他の言語を学ぶことでその文化へのコミットメントを示すことができ、信頼もされる)

そして次のようにも書かれています。

The person who has a language in their head will always have the advantage over somebody who relies on a device, in the same way that somebody with a head for figures has the advantage over somebody who has to reach for a calculator.(言語を習得した人というのは常にデバイスに頼る人より優位に立つだろう。暗算できる人が計算機を必要とする人より有利なように)

というわけでガッツポーズ! 自動翻訳の開発が進んでも語学学習/通訳トレーニングはやめるべきではないという気持ちを新たにしました! これからラグビーワールドカップやオリンピック、2025年万博などますます外国人観光客が増え、自動翻訳が重宝するときもあるでしょうが、まだまだ私たちの居場所はあると信じています。

2019年2月17日

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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