Vol.48 「言語と文化はつながっている」
【プロフィール】
ロミ 眞木子さん Makiko Lommi
フリーランス通訳・翻訳者。フィンランド、ヘルシンキ在住。
上智大学外国語学部ロシア語学科卒業
ビリニュス大学言語学部リトアニアン・スタデーィズ修了
2010年のお正月休みを利用して数年ぶりにご家族と帰国されたロミ眞木子さんに色々とお話しを伺いました。IKEAやH&Mの日本進出もあり、今やブームの域を超えて日本でもすっかりお馴染となった北欧カルチャーの発信地のひとつでもあるフィンランドに渡ったいきさつ、言語や学ぶことへの情熱を熱く語っていただきました。
Q . ロミさんが翻訳と深くかかわるようになったきっかけを教えてください。
子どもの頃、家の近くで英語を習っていました。そのお陰なのか、昔から英語の成績が良く、また母の影響で世界各国の映画を見るのも好きで高校生の時から周囲に「将来は字幕翻訳でもやったら?」と言われながら、そのまま上智大学のロシア語学科に進学しました。
上智在学中に、ある国際映画祭で行われたシンポジウムの内容を翻訳する機会をいただき、さるドキュメンタリー映画に字幕で使用されました。それはその時限りで終わったのですが。
卒業後は損保会社に勤務し、保険、金融の分野を中心に英語と関わる業務をしながら損保協会で開催される貿易英語やコレポンのセミナーに参加したり、会計英語をかじったりしながら地道に英語の勉強は続けていました。
そんな中で、ぼんやりと1~2年留学してみたいな、と思い始め、英語圏に行くことも考えたのですが、大学でロシア語を勉強してロシアやバルト三国に興味がありましたので、会社を辞めて1998年にバルト三国のひとつ、リトアニアに留学することになりました。留学は1年の予定だったのですが、政府奨学金がいただけることにもなり、また留学先のビリニュス大学で日本語講師の仕事もやっていたのでもう1年いることになり、合計2年いました。
2年目にひょんなことからある翻訳会社さんに登録しませんか?と声をかけていただき、一時帰国中の出向やオンラインでお仕事をいただく機会に恵まれました。また、留学中に現在のフィンランド人の夫と知り合い、リトアニアからフィンランドに渡り、フィンランドで文化事業団体のインターン勤務などを経て本格的に翻訳を始めるようになりました。
Q. いつごろから翻訳を職業にしようと思われたのですか。
ヨーロッパに来てから翻訳会社さんに声をかけていただく機会が増えた頃からでしょうか。正直、初めは受身的な気持ちも半分で、それほど高い職業意識があったとはいえなかったと思います。それでも、お仕事が増えるにつれてもっと勉強を!となり、自分からも翻訳会社さんにアプローチしていくようになりました。幸い、自分自身、語学を勉強してきたので、外国語の勉強方法も知っていましたし、言葉というものはいつも文化と繋がっていますので文化についての勉強方法も知っていました。そういった地道な努力をヨーロッパに渡ってからは欠かさずやってきましたね。また、フィンランドにいる自分がやっているものはこれだ!と誰にでもわかってもらうには「翻訳」という選択肢は非常にわかりやすいな、とも考えるようになりました。また、子どもたちのことを考えると自然に翻訳を仕事にしていくというスタイルになっていきました。さらには、フィンランド国内からも翻訳の依頼が来るようになったため、昨年フィンランドで翻訳事業者として正式に登録をしました。
Q. ロミさんにとっての翻訳の魅力を教えてください。
私、構文の分析が大好きなんです。難解になればなるほど燃えると言いますか(笑)分析をしてその英文を自然な日本語に置き換えていく作業自体がすごく楽しいところが魅力ですね。
もうひとつは、ご依頼いただく文書の内容でしょうか。時代の流れをいち早く知ることができるように感じるところです。もちろん、全て機密事項ですが(笑)いただく原稿で時代を知ることができますね。そして、自分もその先端にいると感じるだけでなく、そこで自分も何かをしているんだと思えることは本当に魅力的で興味深くもあります。
Q. 翻訳以外のお仕事も幅広くご活躍されているようですが具体的にお話しを聞かせてください。
日本からフィンランドへいらっしゃる方へのガイドや通訳などをしています。フィンランドへ視察や調査にこられる方に通訳のお仕事をさせていただく機会が出てきたため、まずは2年ほど前に公認ガイドの資格を取りました。もちろん、観光客へのガイドもやっていますし、フィンランド滞在中に急な病気や怪我に遭われた方への医療通訳もしています。翻訳という仕事は人と会わない時間が多いので、それでバランスをとることにはなっているかもしれません。また、フィンランドに移った時に、できることは何でもやっていこう!と思っていましたし、いただくお仕事は基本的に全て引き受けるというスタンスでしたので。でも、特に通訳を通して色々な方にお会いすると、自分にはまだまだ通訳技術の勉強が必要だなと感じます。その他にもいろいろな仕事をしてきましたが、すべての精度を同じように上げていくことは少し難しいと感じているので、今後、仕事は多少淘汰されていくのかなとも感じています。例えば、以前はメディア関係のコーディネートなども承っていましたが、最近は時間的な都合でお引受できないケースも出てきています。また、2006年から、毎週土曜日にこちらの日本語補習校でフィンランドに在住する日本人の子どもたちに国語を教えていたのですが、大変残念ながらこの3月一杯でお休みをいただくことになりました。
Q. ロミさんの今後の目標や夢をお聞かせください。
やはり、言語を軸にクライアントのニーズに合わせたサービスを提供し続けることでしょうか。翻訳はやっぱりサービス業だなとつくづく思います。専門性の高い仕事ですが、クライアントあっての仕事なのでやはりクライアントに満足していただかないと意味がないですから。
翻訳以外では、今年からフィンランドでの通訳者の資格コースに通っています。様々な公共の場、例えば病院や警察、裁判所などですが、いろいろな方にそのような場所であまりお会いしないほうが良いのですが、そういった公共性の高い場で精度の高い通訳をするための資格です。その資格をとることが今の目標ですね。また、最近は広告関係や文芸翻訳など人目に触れるような翻訳依頼も多くなってきましたのでそれをより良いものに仕上げていくことも目標ですね。長期的な夢としては、また大学に行って学位を取りたいと思っています。子どもと一緒にでも(笑)
Q. 最後に翻訳者を目指している方へのアドバイスをお願いします。
翻訳者というのは極端な話ですが、自分が今日から「私は翻訳者です」と名乗ればできます。でも、翻訳をやるからにはその成果物をお客様へ「きちんとした商品として出せるのか?」ということは常に頭に入れておくべきだと思います。さきほども言いましたが、翻訳はクライアントあってのサービス業だと考えるからです。
また、これは私の座右の銘のようなものでもあるのですが、「言語の専門家を名乗る時、その人はその言語が生まれた背景、文化、社会、歴史に通じている」と。それを前提にして言語に関わると、自分がどこまで何を知っていて、何を知らないのかがおのずと見えてきます。それはまた自分の得意分野も知ることにも繋がります。だから、目先の仕事が欲しいというだけでなく、今申し上げたようなスタンスを持つと翻訳の基礎体力のようなものがついてくると思います。また、言葉に対峙するとはどういうことかという心構えを最初に作ってみるのもいいと思います。最後は、ソース言語とターゲット言語についてきちんと勉強することですね。特に私同様、海外にいらっしゃる方は自分の日本語力が見えてこなくなることがありますので意識して勉強されてみてはどうでしょうか。
編集後記
大きな瞳をクルクル動かしながらよく通る声でお話しされる姿がとても印象的でした。どこにそんなパワーがあるんやろ?と思ってしまうほど小柄なロミさんから想像もできないほど行動力に溢れたエピソードには思わずこちらが脱線して質問してしまうほどでした。言語と真摯に向き合い、ロミさんにしかできない通訳・翻訳とは何かを常に模索しながらも、異国でご自分のアイデンティティを確立なさっている生き方は大いに刺激になりました!お忙しい中、本当にありがとうございました。
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