Vol.46 「唯一興味が続く事」
【プロフィール】
松崎千代さん Chiyo Matsuzaki
ウエストバージニア大学(WVU)心理学部卒業。帰国後、通訳学校に通い、OJTから通訳業務を開始。大手エンターテインメント会社、IT、通信、アパレル、コンサルティング会社など幅広い分野にてインハウス通訳経験を積む。その後、フリーランス通訳者となり現在でも第一線にてご活躍中。
Q.語学との出会いはなんですか?
不思議と物心ついたときから外国に興味があって、気付いた時にはテレビで見る海外の映像などが大好きで、その流れで自然と英語ってかっこいい!と思ってました。まだ小学校に入学する前に、父がカナダ出張に行った時の湖の写真を見せてくれたんです。世界にはこんな綺麗な場所があるんだ!と凄く感動したのを今でも覚えています。お土産の日本にはない形のペンケースとか、海外のもの全てに衝撃を受けました。小さな子供が特に理由もなく持つ興味の対象は人それぞれだと思いますが、それが私は外国だったんだと思います。
父も語学が好きで自分で勉強するような人だったので、その影響もあったかと思います。
小学生の時はマドンナの音楽が好きで、彼女の歌の響きに魅かれ、意味が知りたくて、カセットを聞いて止めての繰り返しをしながら辞書を引いて単語を調べたりしていました。
私はすごく飽きっぽくて何事も長続きしない性格なんですが、英語と海外への興味だけは唯一続いています。
Q.初めて海外に行かれたのはいつですか?
私はどっぷり国内育ちで、アメリカの大学に進学する為に渡米したのが初めての海外でした。最初は日本の外大に行こうと考えていましたが、通っていたのが進学校で周りの受験に対する勢いに逆に引いてしまい、受験勉強したくないなと(笑)。それで、どうせ英語を勉強するなら海外に行った方がてっとり早いと思い、迷いなく閃きでアメリカの大学に行くことを一日で決めました。
4年間の大学生活はずっとテンションが上がりっぱなしでした。田舎だったので景色もきれいで、キャンパスの行き帰りの道ですら、小さい頃から憧れていた景色の中に自分がいる事が嬉しくてたまりませんでした。周りの友人も優しくて一度のホームシックもなく、最初から最後まで楽しかった思い出しかないですね。
Q.大学では何を専攻されたんですか?
大学では心理学を専攻しました。1-2年の必須教科で心理学のクラスを選択した時に、勉強とは思えないくらい教科書も授業も楽しかったんです。それで専攻も絶対心理学にしようと決めました。アメリカの大学は課題や提出物(ペーパー)も多く勉強はハードでしたが、語学力はもちろん、タイピングの速さや英文作成力など、一生懸命頑張ったことが今の仕事に多いに生かされています。
Q.通訳という仕事を意識されたのはいつごろからですか?
実は小さいころの作文に通訳になりたいと書いていたらしいです。通訳、外交官、キャビンアテンダントなどブレながらも、幼いころから海外を視野に入れた職業に憧れていました。大学を卒業する時も漠然とそういった仕事に就ければいいなと思いつつ、特に就職活動もせず、ヨーロッパを放浪してから帰国しました(笑)。
帰国後すぐに通訳学校に通い始めました。勉強を始めて間もなく、募集が出ていたインハウス通訳のポジションに応募したら受かってしまい、経験が全くないまま通訳としてのキャリアがスタートしました。今思い出すと顔から火が出るくらい一年目は通訳として全く機能していなくて、お給料を頂くのが申し訳ないくらいでしたね・・・。
Q.通訳を始められて苦労された事を教えてください。
英語は充分話せるようになったし応募しちゃえ!と無知の強みでなぜか採用されてしまったので、とにかく社会人としても通訳としても基礎が無く、ビジネスの背景も全く分からないし、メモ取りもろくに出来ず、周りのベテランの通訳の方々に助けて頂きながら現場で学ばせて頂くことばかりでした。できる事なら当時お世話になった方一人一人に謝りたいくらい、通訳の何たるかを全く分かっていない一年目でした。
Q.新しい分野に挑戦される時はどんな気持ちですか?
自分でもチャレンジャーだと自覚してますが、初めての分野は最初はやっぱり怖いです。そんな事ありえないのに、スピーカーの言うことが一言も聞きとれなかったらどうしよう・・という気持ちになる事もあります。
ただ、インハウスとしていろんな会社でお仕事をさせて頂いた時に、いきなりIT関係のプロジェクトにアサインされたことがあり、根っから文系の私にはとても無理だと思ったんですが、やっているうちに段々おもしろくなって、今では好きな分野のひとつです。苦手な分野でも最後まで諦めずに食いついて頑張れば分かるようになるんだというとてもいい経験になりました。もちろんコーディネーターの方は私のスキル・経験をわかった上で合う仕事を紹介して下さっていると思うので、スケジュールが空いている限り、初めての分野でもあれこれ悩まず受けるよう心がけています。
Q.今でも記憶に鮮明に残るような失敗談はありますか?
クレームにつながるような大きな失敗こそないですが、失敗は日常です。同じセンテンスでも訳し方は十人十色で正解がないからこそ、訳してる先から、さっきはこう訳せばよかった~と反省することはしょっちゅうです。あと空耳も多いです。特に外国人の発音する日本語はすごく混乱します。まさか日本語が出てくるとは思わないので、ありえない発音で日本語の単語を挟まれたりすると想像すら出来ず、その時は聞こえてくる音のまま訳出し、一瞬の間のあと、皆さんがあ~と気づいてくれることも多いです。先日も「チャビン」と聞こえてきて、「Chabin? Cabin? 何?」と混乱したまま、仕方なく「チャビン」と言ってみたら「茶瓶」でした…。
Q.通訳というお仕事の遣り甲斐を教えてください。
いろいろな会社や業界に行けて、普通だったら関わることもない世界を見られるところが醍醐味です。これまで本当に人に恵まれていて、行く先々で尊敬できる素晴らしい方々との出会いがあり、そこにこの仕事の魅力を感じます。本来ならお会いすることもない組織のトップの方などのお仕事を間近に見られるのは、この仕事ならではですね。人として見習うべき素敵な方が本当に多いです。
Q.もし通訳になっていなかったら何をしていたと思いますか?
通訳になっていなかったら本当にフリーターになっていたと思います(笑)。それくらい飽きっぽくて何事も続かないし、何に対しても執着心がないです。通訳は毎回相手も内容も違いますし、百点が取れない仕事です。だからこそ唯一興味が続いていて、それを仕事に出来ているのは幸せです。やめたいと思った事も一度もなく、未だに毎回新鮮な気持ちで仕事に望んでいます。
Q.松崎さんの将来の夢を教えてください。
通訳は仕事・生活の糧として割り切っている部分があります。もちろん凄く好きな仕事ですし、今後も続けていければ嬉しいですが、いずれはもっと社会貢献につながるような仕事にシフトできればと思います。遠い将来の話になりますが、もう一度心理学をきちんと勉強し、臨床心理士やカウンセラーになるのが目標ですね。
Q.最後に、通訳を目指されている方へのアドバイスをお願いします。
私は全く模範的な通訳ではないので、アドバイスができるような立場ではないですが・・。
最初は失敗はつきもので心配していてもきりがないですし、立ち直りの早さが重要です!一度ミスすると腰が引けることもありますが、自分でリミットを決めず、与えられたひとつひとつのお仕事に対してできる限りの準備をして、全力で望むしかありません。
どんな話題や内容が出ても通訳できなければいけないので、自分の知識が浅いと感じた仕事の後は納得がいくまでリサーチします。分からなかった部分だけに限らず、関連する事柄まで幅広く調べて理解を深めておくと、必ず次の仕事につながります。やはり背景を理解できているといないでは、訳す上で自分の中の噛み砕き度が全く違い、パフォーマンスに差がでますから。ある程度通訳スキルが身に付いたら、スキルそのものだけでなく、幅広い分野に関する理解や知識を深めるための勉強が大事ではないでしょうか。
あと、私は通訳は完全にサービス業だと思っているので、派遣という立場、単発のお仕事に関わらず、職場ではチームの一員だという気持ちを強く持つようにしています。常に相手がある仕事ですので、自己満足の通訳ではなく、話し手の気持ちを酌んだ、聞き手が理解しやすい訳を心がけ、その場のコミュニケーションが最大限に円滑になるような気配りも必須だと思います。
ただ私自身も、毎回素晴らしい通訳者の方と組ませていただく度に自分はまだまだだと反省することばかりで、いまだ日々修行の毎日です。
編集者後記:
とっても自然体で本当に素敵な方でした。小学生の頃にマドンナの歌詞をテープ起こしして翻訳したというお話を聞いて、本当に松崎さんと海外・語学は最初から繋がっていたんだな~と驚きました。私も小学生から興味を持っていたもので今に繋がるものをつい探してしまいました(笑)ありません。記事には書いていませんがよく行かれる海外旅行のお話もお伺いし、私個人的にとても参考にしたいアドバイスもたくさん頂きました(笑)。お忙しい中お時間を頂き有難うございました。
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