INTERPRETATION

Vol.2 「立派な国際人とは立派な日本人である」

ハイキャリア編集部

通訳者インタビュー

【プロフィール】
藤堂栄子さん Eiko Todo

幼少時代からヨーロッパ各地に計10年滞在。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、駐日EC委員会(現在ヨーロッパ委員会-EU)代表部に勤務。結婚・出産を経て、フリーランス通訳者に。現在はフリーランス通訳の傍ら、藤堂事務企画代表取締役として、NPOの運営に多忙な毎日を送る。

Q. 大学卒業後は、駐日EC委員会(現在のEU)代表部に?

そうなんです。私は父から強い影響を受けているのですが、もともと大学には行かずに、通訳の専門学校に行こうと考えていたんですよ。そんな時、外交官の父から「通訳はいつでも出来る。言葉は道具にすぎない。問題は『何を伝えるか』なんだから、まずはちゃんと内容を積みなさい」と言われたんです。そこで大学に入学することにしました。その後、EU日本代表部で働くことになりました。子供が産まれる直前まで働いていたので、6年間くらいです。その間、仕事の中で通訳をすることはありましたが、本格的にフリーランスになったのは子供が3歳になってからです。

Q. 海外生活が長いようですが、語学に関してのご苦労はありませんでしたか?

私の場合、全て耳から入っているので、特に苦労という苦労はしていませんね。通訳に関しても学校には行かず、’Self-taught’でやってきました。勉強といえば、大学入学前からFENのニュースを聞いて、同時通訳的に訳出しをしていました。英語以外の言語は、もどかしい部分があって会議通訳をするまでには及ばないのですが、例えば英語プラス仏語も出来るとありがたい、という依頼が来たときなどは、非常に重宝されますね。
日本語に関しては、本をたくさん読んでいましたし、家の中での会話は日本語でした。父から「立派な国際人とは、立派な日本人である」とよく聞かされていました。まず自分のアイデンティティがしっかりしていなければ、真の国際人にはなれませんし、自国語と自国の文化を知らなければ、いくら言葉が出来てもダメだということなんですね。

Q. 7年前に会社を設立しようと思われたきっかけは?

テレンス・コンラン卿というデザイナーが日本でショップを出す際、お手伝いをしたんです。その時に、彼の’The Essential House Book’という本のダイジェスト版を日本語で作らないかというお話を頂きました。こういう場合は、個人よりも会社組織のほうがいいのでは、という周りからの強い勧めもあって、会社設立にいたったわけです。これをきっかけに、イングリッシュガーデン作りに協力したり、Flora2000花博で金賞を頂いたりと、ほんとに全部つながっているんです。通訳学校で訓練を受けた方は、よく「通訳は黒子に徹する」とおっしゃいますが、私はTPOによって変えればいいと思うんです。例えば少人数の会議では、自分を出す必要もあるし、少しプラスのサービスをすることによって、印象に残って次もお願いされるというケースもある気がします。これは、学校で教えられる『通訳道』とは外れているかもしれませんが……。

Q. 現在、NPOの運営にも取り組んでおられるそうですが、一週間のスケジュールはどのような感じですか?

ディスレクシアという、知能には問題ないが読み書きの不自由な子供の支援団体を立ち上げたところで、今そちらにかなり時間を取られています。週40時間働くとすると、2日(16時間)は通訳で、残りの時間はNPO関連ですね。それに加えて30時間自宅でも仕事をしているので、今に倒れるぞと周りにいつも言われていますが……(笑)。でも本当に楽しいんですよ。いろんなことをやっているから、仮にストレスがたまったとしても、次の仕事で解消しているようなところもありますし。スポーツ観戦も好きで、よく国立競技場や神宮の野球場を荒らしています(笑)。藤堂さんの七つ道具

Q. もし通訳者になっていなければ、何をしていたと思いますか?

獣医か外交官ですね。ただ、獣医になるには数学や理科系の知識が必要なので、ちょっと難しいんですけれども……(笑)。
父と二人の祖父が外交官だったので、自分も当たり前のようにそうなるだろうと思っていました。ただ当時は女性の外交官を一人も採用していなかったので、諦めたのですが。 まあこれは今思うと、諦めさせるために父がそう言ったのかもしれませんね。

Q. 最後に、これから通訳を目指す方へのメッセージをお願いします。

いつも、自分は「文化の架け橋」なんだという意識を持っていてほしいと思うんです。単なる「言葉の機械」ではなくて、自分の伝えたいことは何なのかということを常に頭にいれておいてほしいんです。よく見かけるのは、ものすごく優秀で言葉としては正しいんですが、エッセンスが伝わっていない通訳者さんですね。言葉だけでなく、相手国の文化やその背景にあるものをもっと勉強する必要があると思います。それから、やっぱり仕事は楽しくなくっちゃ!これが私のモットーですから(笑)。

<編集後記>
とにかくパワフルでプラス思考な方です。仕事が本当に好き! という藤堂さんですが、「お金を頂いた上で、新しいことを知ることが出来るのが喜び」とのコメントには脱帽。まるで魔法にかかったような1時間でした。

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テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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