Vol.30 「失敗をおそれないで」
【プロフィール】
折尾富子さん Tomiko Orio
高校卒業後カナダへ。St. Clair College of Applied Arts卒業後、現地新聞社、アパレル企業等に勤務。約16年をカナダにて過ごす。帰国後、アパレル企業勤務を経て、フリーランス通訳者としての活動を開始。現在は、会議からエンターテイメントまで幅広い分野でフリーランス通訳者として活躍中
Q. 語学に興味をもったきっかけは?
父が英語を話すので外国人が家に来ることもありましたが、自発的に英語を勉強しようと思ったことはありませんでした。本当の意味で初めて英語に触れたのは、中学校での授業です。それまで何となく聴いていたミュージカルの歌詞が理解できるようになったことは嬉しかったです。辞書を引くと、何となく歌詞の意味がわかるんですよ。あぁこんな素晴らしいことを歌っていたのかと思うと、急に世界が広がったような気持ちになりました。
Q. 高校ご卒業後カナダへ?
日本の大学に通うことも考えましたが、海外に行ってみたい、英語がもっと話せるようになりたいという気持ちが強かったんです。カナダなら治安も良さそうだし、知り合いもいるからいいだろう、と親も賛成してくれました。
日本の学校でしか英語を勉強したことがなかったので、読み書きは多少できても、リスニングとスピーキングは本当に大変でした。カナダでは最初に語学学校に通いました。
Q. 通訳になろうと思ったのは?
帰国後、アパレル企業で働きました。英語を使う頻度も少なく、これは環境を変える必要があるかなと思ったんです。もっと英語を使える仕事があるかもしれないと思い、通訳エージェントにも登録を始めました。通訳になりたい! と思ったわけではありませんが、好奇心だけは強かったので、いろんなことをやってみたかったんです。
Q. 通訳者として初めてのお仕事は?
初めての大きな仕事という意味では、テーマパーク建設プロジェクトの通訳です。オープニング1年前からフルタイムで勤務することになり、本当にいろんなことを勉強させて頂きました。現場だけではなく、マーケティングや商品開発等のテクニカルな会議にも入ることができ、ここで学んだ知識は今もあらゆるところで役に立っています。本当に感謝しています。
通訳になりたての頃、新しく学んだ表現を、大学ノートに書き込んでいたんです。今でも宝物です。
Q. お得意な分野は?
分野問わず、プロジェクト関係の通訳は大好きです。特にエンターテイメントのテクニカルが好きです。舞台を作り上げていく過程に、コンセプト段階から参加させて頂くので、完成した時は感動でいっぱいです。
Q. 今だから話せる失敗談は?
高所恐怖症なんです。自分で知らないままに、すごく高いところで通訳をすることになったことがありました。囲いがなくて、下が透けて見えるような場所で、こわくなって泣き出してしまったことがあります。もっと自分のことを知っておくべきでした。今は、高いところでのお仕事はお断りしています。囲いがあれば大丈夫ですが、ご迷惑をおかけしたくないので。「富子は、3メートル以上のところはダメだから」といつもからかわれています(笑)。
Q. 通訳をする際、気をつけていることは?
服装です。テーマパークや舞台通訳は何が起こるかわかりません。会議中、「じゃあ現場を見てみよう」となる可能性もあるので、どんな時でも対応できるよう必ずパンツと動きやすい靴で行きます。すごく慎重な会議に、素足にサンダル、ノースリーブで登場するのはもっての他です。必ずTPOをわきまえた服装をするよう心がけています。常識がない人は通訳ができません。挨拶ができない、組んでいる人をサポートできない、隣で通訳している間に自分だけ別の仕事をするなど、いくら通訳が上手でもプロ失格です。
私が上手だなと思う通訳者さんは、皆本当に人間的に素晴らしい方ばかりです。通訳スキルが高くても、他に問題があるとリピートは来なくなります。その中には、性格的なことだとか、スマイルがないとか、いろんな要因が考えられますが、総合的なスキルで評価されるのではないかと思います。
Q. 折尾さんの強みは?
その場の雰囲気に合わせて、コミュニケーション作りができることでしょうか。言葉って本当に面白くて、いろんな言い回しや表現があるので、状況に応じて使い分けることができればと思っています。
通訳する相手の雰囲気、話し方を研究することもいつも心がけています。会議当日は早めに現場に行って、スピーカーと話をします。時間がなければ、お天気の話でもいいんです。少しでも本人と話すことによって、スピーカーの話の癖やアクセントに慣れることができますから。そういう意味では、ブース内通訳より、人の顔を見てその人のそばで通訳する方が好きだと言えます。
Q. 通訳者を目指す人へのメッセージをお願いします。
自分を「文化や言葉が違う人達の架け橋」だと思うことです。通訳を始めたばかりで、不安を抱いている方も多いと思います。そんな時は、原点に立ち返ってください。言葉が分からないから、通訳を頼んでいるのであって、「絶対にミスをしてはいけない!」と自分で自分にプレッシャーをかけすぎないことです。もちろんミスはいけませんが、自分が間に入ることによって、コミュニケーションのお手伝いをしているという意識を持てばいいんです。
失敗しないと絶対にうまくなれません。どんどん恥をかいてください。今、第一線で活躍している人は、皆失敗し大恥をかいてきている人達ばかりです。最初から上手な人なんていません。好きで続けていけば、絶対にいい通訳者になれると思います。
<編集後記>
「よく皆で集まって、ポットラックパーティをやるんです」と折尾さん。きっと折尾さんの周りには、自然に人が集まるんだと思います。目指す方へのメッセージ、永久保存版です。
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