Vol.29 「音楽は私の生きがい」
【プロフィール】
永田由美子さん Yumiko Nagata
幼少より小学校3年時までをカナダ、中学3年より3年間をペルーにて過ごす。青山学院大学文学部英米文学科在学中より、通訳翻訳の仕事を開始。卒業後は、音楽雑誌社にてインタビュー及び編集を担当。8年後、フリーランスに。現在は音楽業界を中心に通訳、インタビュー、歌詞対訳、字幕翻訳等を手がけている。
Q. 小学3年生の時、カナダから帰国されたと伺いましたが。
英語で教育を受け、家の中でも英語だったので、一言も日本語を話せないまま日本に戻ってきました。市からは、1年生のクラスに入るようにと要請があったのですが、両親の説得もあって何とか3年生クラスに入れました。例えば国語の授業では、皆が漢字を勉強している時に、私一人教室の隅っこで、ひらがなを書いているわけです。半年ぐらいで随分話せるようになりましたが、当時の私にとって日本は外国でした。
Q. 言葉に対する意識は昔から強かったのでしょうか。
「異文化のかけはし」のような存在になれたらいいなと思っていました。小学校の卒業文集に、「将来の夢は通訳」と書いたようです。海外で過ごしたので、幼いながらいろいろと感じていたのかもしれません。
Q. 大学在学中から通訳のお仕事を?
大学1年の時から、少しずつやっていました。通訳学校には3年生になってから通い始めたんです。通訳学校や大学の先生に応援して頂いて、私自身も「将来は絶対に会議通訳者になるぞ!」と強く思っていました。結局、卒業後は全く違う職業に就いたのですが(笑)。
Q. 音楽雑誌社に就職されたのですね。
ロック音楽が大好きで、ペルーにいたときも、日本からわざわざ愛読誌を取り寄せていたほどです。何を思ったか、大学3年生のときに、音楽雑誌社に電話をかけたんですよ。「編集長いますか?」と(笑)。「音楽が好きで、この雑誌がすごく好きで、英語もちょっとできます!」と話したら、「じゃあ明日遊びに来ないか?」と言われました。翌日お会いしたときに、「簡単な翻訳やってみない?」と言われ、なんとその日のうちに原稿をもらいました。
音楽は趣味だからと思っていたのですが、大学4年の時に、正社員にならないかと声をかけて頂いたんです。音楽業界で仕事をするのは難しいと聞いていましたし、1-2年やってみるのもいいかしれないと思い、そのまま就職したんですよ。
Q. フリーになろうと思ったのは?
ほんの1-2年のはずが、気がついたら7年経っていました。来日アーティストのインタビューコーディネート、通訳、取材、編集と、語学を生かして好きな音楽に関わることができ、最高の職場でした。
他のジャンルの音楽もやってみたいなと思い始めていたこと、この世界で自分がどこまでできるか、何ができるかを試してみたいと思い、フリーになったんです。
Q. フリーになってからの、主なお仕事内容は?
歌詞の対訳が一番多いかもしれません。他に、来日アーティスト通訳、インタビュー、DVDの字幕付けも担当しています。歌詞対訳の難しさは、ただ言葉を置き換えるのではなく、原文と日本語のバランスをいい具合にとらなければいけないことです。’I’にしても、「僕」なのか、「俺」なのか、「アタシ」なのかで大きく雰囲気が変わってきます。事前にアーティスト情報を調べ、曲を何度も聴いて、イメージを作っていきます。
困るのが、意味を成さない歌詞の場合。そのまま日本語にするわけにもいかず、アーティストに聞くと、「あ、あれ? メロディが先に来たから、歌詞は後で入れただけだよ。きれいだなと思った言葉を並べただけだから」と言われるわけです……。韻を踏んでいる単語を並べただけだ、と言わたこともあります。完璧な対訳なんてないんですが、こういうときは本当に悩みますね(笑)。
Q. 今までで、一番印象に残ったお仕事は?
仕事柄、たくさんのアーティストに会います。仕事なので、ミーハーな気持ちにはなりませんが、普段会えない人たちに会えるのは嬉しいことです。雑誌社に入ってすぐ、私が大好きなバンドの取材をすることになりました。地方ツアーにも同行し、彼らの行動記録を臨時増刊号で出したこともあります。デビュー時代から知っているので、少しずつファンが増え、アルバムが売れると、まるで母親のような気持ちになります。
戸惑ってしまうのが、プライベートでアーティストと会ったときです。先日、友人の粋なはからいで、私の敬愛するアーティストである槇原敬之さんにお会いしたんです。前の晩から眠れず、当日も彼を目の前にして、がちがちになってしまいました。
Q. フリーになって、どのくらいですか?
11年目です。あの時出版社に電話をかけていなければ、今の私はありません。今、本当に楽しいです。
最近読書中の本と、大好きな槇原さんの詩集。
Q. 永田さんにとって音楽とは?
なくてはならないもの、生活の一部です。取材に出かける電車の中では、ipodでその日取材するアーティストの曲を聴きます。気持ちを高めて、リングに上がる感覚でしょうか(笑)。帰るときは、槇原さんの曲を聴いてクールダウンします。対訳をする時も音楽を聴いています。
大学時代の研究テーマは、「英詩」だったんです。今の仕事ときれいに繋がっていますよね?!
7つ道具と、対訳した思い出のアルバムたち。
<編集後記>
次から次へとあふれ出る素敵なエピソードに引き込まれ、あっという間の1時間でした。今度お会いする時までに、ロックを聴いて勉強しておきます!
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