Vol.27 「この道より我を生かす道なし。この道をゆく」
【プロフィール】
小笠原ヒロ子さん Hiroko Ogasawara
ノートルダム清心女子大学英文学科卒業。在学中、第17回岡山-米国サンノゼ姉妹都市交換留学生として1年間サンノゼ州立大学に留学。大学卒業後、岡山市役所秘書課に勤務、通訳、姉妹都市関係事業担当。3年後フリーランスに。現在は、岡山をベースに、フリーランス通訳者として活躍中。平成11年からは、母校にて通訳論を担当している。
Q. 語学に興味を持ったきっかけは?
中学での英語の授業なんです。英語の音を耳にしたときに、「私、これ好き!」と瞬間的に感じました(笑)。それまで特に英語に触れる機会はなかったので、今考えてもなぜだかわかりませんが、あの時の衝撃は大きかったです。今までに聞いたことのない音への憧れだったのでしょうか。
Q. そこから英語とのお付き合いが始まったんですね。
中学2年の途中からは、母の薦めもあって、英語教育に力を入れている中高一貫教育のカトリック系学校に転校しました。校長先生であるアメリカ人のシスターには本当によくして頂きました。スピーチコンテストに出させて頂き、個別指導までして頂いたんです。当時の語学力なんて、This is a pen. I am a girl.ぐらいだったんですが、アメリカ人の学生ボランティア達に話しかけて、少し会話らしいものができた時や、彼らの話すことが少しでも聞き取れた時は本当に嬉しかったですね。
Q. 大学ご卒業後はすぐに通訳に?
何らかの形で英語を使った仕事ができればと思っていたところ、岡山市役所で国際交流の仕事に携わることになりました。秘書課への配属でしたが、海外からの訪問団の通訳や翻訳を頼まれることがあって、だんだん通訳って面白いなと思い始めました。
Q. フリーランスになったきっかけは?
市役所での通訳を任されるようになったものの、大学を卒業してすぐだったので、まず会議の内容を理解するのにすごく苦労しました。秘書、国際交流業務と同時にこなしていくのはかなり大変だったんですが、他に頼る人もおらず自分で全部抱え込んでしまい、ある時これはもう限界だと退職届を提出しました。
これから何をやろうかと思っていたところ、ある岡山の企業から、「通訳をしてほしい」とご依頼を頂いたんです。市役所で通訳していた私を見かけてお声をかけて頂いたんだと思います。少しずつですが他企業からもお声をかけて頂くようになり、いつのまにかフリーランスとして活動するようになりました。
Q. 通訳学校にも通われたんですか?
最初は全て自己流でやっていました。当時は記憶力も良かったので、ある程度メモを取れば、後は覚えられたんです。中高時代の一夜漬け勉強の成果でしょうか?(笑)だんだん専門性の高い内容になってくると、記憶だけを頼りにするのは危険だと思い始め、それからメモ魔になりました。今でも本当にたくさんのメモを取ります。例えば、8時間の仕事で、大体B5ノートの3分の2くらいは使ってしまうんです。これって多いですよね?(笑)
その後、大阪の通訳学校に通いました。既に自分のやり方が確立されており、先生にもそのままでいいとおっしゃって頂いたので、ものすごく大きな発見があったというわけではないのですが、それ以上に他の生徒さんと交流できたことが嬉しかったです。今までずっと一人でやっていたので、大阪にはこういう通訳者さんがいるんだな、この人はこの分野が得意なんだなと、他の通訳者に学ぶことも多く、大きな刺激になりました。
Q. 今までで一番印象に残ったお仕事は?
死刑廃止についての通訳です。『デッドマン・ウォーキング』の著者、シスターヘレン・プレジャンの講演会でした。テーマの重さに不安もありましたが、できるだけ準備をしようと、ビデオや本で勉強するうちに、どうしてシスターがこのテーマに取り組んでいるのかが分かった気がしたんです。人間愛、なんですよね。本当に大きな愛を感じる方で、実際にお会いし、通訳をさせて頂いて本当に感動しました。仕事が終わった後も、ずっと余韻が残っており、あぁこの仕事をしていてよかったと心が震えました。
Q. 仕事上の苦労話について教えてください。
冷や汗をかくことが多いので、仕事のときは、綿か麻の服しか着ません(笑)。ナイロンだと吸収してもらえないので……。
今までは、失敗すると萎縮してしまって、なかなか立ち直れなかったんですが、最近考え方を変えるようにしたんです。くよくよしたところで、次のパフォーマンスが良くなるわけではないんですよね。失敗したとしても、それはそれと割り切って次のことを考えるようにしています。
Q. お得意な分野は?
地方にいるので、頂いたお仕事は基本的に請けることにしています。毎回内容が違い、未経験分野のお仕事が多いこともありますが、その分やりがいもあり、やってよかったと思える仕事が多いんです。
Q. 今後もずっと岡山をベースに通訳を?
はい、この仕事は続けていきたいと思っています。壁にぶつかった時、他の仕事をやりたいと思ったこともあったんですが、吉永小百合さんの「この道より我を生かす道なし。この道をゆく」という言葉に出会いました。まがりなりにも、ずっと通訳をやってきて、今やめてしまったら絶対後悔するに違いないって思ったんです。それからは、何があっても逃げないでいようと決めました。気持ちが固まると、挑戦する楽しみが出てきましたし、これからもっともっと極めていきたいと思っています。
これからもずっと岡山にいるつもりです。皆、大阪や東京に行ってしまうので、岡山に残らないんですよ。現在、岡山をベースに活動している通訳者は、ほんとに数人なのではないでしょうか。だからこそ、私が市役所を辞めた時に、地元企業からお声をかけて頂けたのかなとも思うのですが。これまで本当に皆さんに育てて頂いたんだと感じています。下手なときから使って下さった方々に、これからは多少なりとも恩返しをしたいなぁと思うんです。私もいい年になってきたので、これからは人の役に立てるように生きていきたいですね。その柱として、通訳があるといいですね。
Q. 地方在住で、通訳者を目指すには?
私自身、自分から何か働きかけたわけではないので、本当に恵まれていたんだと思います。だからこそ、今まで続けてこれたのかもしれません。とにかく、与えられた機会を大切にしてください。
Q. もし、通訳者になっていなかったら?
他の人生は、考えられないんですよ。通訳者としてしか自分を見ることができないので、考えても思いつきません。初めての英語の授業で感じた感動が、今も続いているなんて、幸せだと思います。
<編集後記>
普段は、東京近辺にお住まいの方にお話を伺うことが多いのですが、今回は特別! 岡山の通訳事情、小笠原さんの地元に寄せる思いなど、いつもとは少し違ったお話を伺うことができました。「これからもずっと岡山におります」、とおっしゃった小笠原さん、今後一層のご活躍をお祈り致します!
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