INTERPRETATION

Vol.56 「人は仕事を通して幸せになる」

ハイキャリア編集部

通訳者インタビュー

【プロフィール】

細谷麻代さん Asayo Hosoya

佐賀県出身。高校時代から英語の勉強に励み、大学では国際関係を専攻。
卒業後も「通訳者を目指す」という目標のもと、就職活動はせずに通訳学校へ通う。
社内通訳を経て、現在は子育てをされながらフリーの通訳者としてご活躍中。

Q1、まずは英語との出会いをお聞かせください。

はい、通訳者になっていらっしゃる方は、海外経験が豊富な方や、小さい頃に海外に住まれていた方が多いかと思いますが、私は全くそういう環境ではありませんでした。九州の佐賀県という田舎町で生まれ育ちました。自然に恵まれてとても美しい町だったのですが、反面閉鎖的なところもあり、小さい頃からもっと広い世界を見てみたい、もっと外に出たいという思いをずっと抱いて育ってきました。

英語に触れたのは中学校からですが、本格的に勉強を始めたのは高校に入ってからです。私は元々負けん気が強い性格なのですが、特に英語は「誰にも負けたくない」という思いが強く、高校1年生の時に3年間で習う英語をすべてマスターしました。その当時は「将来通訳者になろう」と意識していた訳ではありませんが、とにかく英語の勉強が楽しかったんです。その後大学は国際関係を専攻しました。英語は自分で勉強できるので、自分では勉強できない国際関係を専攻しました。

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Q2、大学卒業後は就職されずに通訳・翻訳者の道を進まれたんですよね?

そうなんです。就職する頃は「通訳者を目指そう」という明確な目標があったので、就職活動はせずに通訳・翻訳者として経験を積もうと思いました。最初は旧宇宙開発事業団(現JAXA)で翻訳担当の派遣社員として働き始めました。ロケットや衛星のインターフェイスに関する技術文書の翻訳をしました。通訳もやらせてもらいました。今までは知らなかった世界で難しい機械的な分野から入ったので、ずいぶん視野も広くなりました。

Q3、通訳トレーニングはどのようにされましたか?

しばらく翻訳の仕事をメインにしていたのですが、どうしても人と関わりたいという気持ちが芽生えました。当時仕事で通訳者の方と話す機会もあり、ますます通訳者になりたいという気持ちが強くなり、通訳学校に通い始めました。最初に先生に言われたのは「最低通訳の授業時間の7倍勉強しなさい」という言葉でした。そうしないと通訳力は付かないし、伸びていかないと言われました。私は学校に通っていた当時は7倍どころか、20倍以上は勉強していたと思います。

勉強方法としては海外のニュースを教材にしました。音声とスクリプトを入手して、実際に逐次通訳のトレーニングをし、放送通訳の方たちの素晴らしい表現を盗む気持ちで訳を書きこんでいきました。これはほんの一部ですが、ずいぶん整理したのですが、それでも当時勉強していた資料は山のようにあります。何度も何度もトレーニングしました。通訳学校で同時通訳科に進級すると、音声に合わせて実際に同時通訳のトレーニングもしました。

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Q4、細谷さんはお二人のお子様もいらっしゃいますが、時間管理はどのようにされていますか?

さぁ、どうしているのでしょうか?(笑)私が本格的に通訳トレーニングをスタートさせたのは、下の子供が生まれてからでした。子供が寝つくとすぐに勉強して、朝は5時前に起きて2時間ぐらい勉強してから仕事に行く準備をしていました。当時は「通訳者になりたい」という気持ちが強かったからこそ、出来たんだと思います。時間管理というより強い思いがあって、モティベーション高くして勉強に取り組めたのだと思います。1日中仕事と子育てと勉強で、プライベートの時間は一切ありませんでした。最近は下の子が「将来は通訳者になりたい」と言い始めました。まだ現実感はともなっていませんが、楽しみですね。

Q5、是非その時はテンナインに登録してください。(笑)その後いくつかの企業で社内通訳者を経験して、2008年以降フリーランスになられていますよね?

はい、通訳者として成長したいという思いから決断しました。どうしても企業内通訳の場合は、いつ通訳を頼まれるか分からない状況です。緊張感もありますが、ずっと通訳をしている訳ではないし、翻訳を頼まれたり、その他の仕事もします。フリーランスになってからは、会議のために現場に向かうので、より通訳者として自覚を持たされるような感覚があります。オンとオフがよりはっきりしているという感じです。当然最初は本当に仕事が来るのだろかと不安な気持ちでいっぱいでしたが、今はよかったと思っています。時間的な自由もあるし、常に試されているというか、よりチャレンジングだと思います。企業内通訳の場合は内容的によくわかっている分野だということ、常に限定的な人に対して通訳をするので、どうしても慣れや甘えが出てきます。フリーランスの場合はその一日だけで評価されるので、私にとってはやりがいがあります。私は「人は仕事を通して幸せになる」んだと思います。

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「人は仕事を通して幸せになる」とは素敵な言葉ですね。

私の趣味は乱読です。本は自分への投資だと思っています。1日2冊読む時もあります。お勧めの本はありすぎて、何を上げたらいいのか分かりませんが、先日読んだ本の中に「人は仕事を通して幸せになる」ということが書いてあって、私も本当にそうだと思いました。生きるために仕事をすると考えている人も多いと思いますが、そうじゃなくて仕事をすること自体が、人生の目的になってもいいじゃないかと思います。仕事が出来る人や成功している人は自己責任を持っています。どこかの組織に属していると難しいかも知れませんが、自分の成長に対して責任を持って仕事をしている人が成功するのだと思います。

Q6、すごく深い話ですね。細谷さんは何事も前向きに取り組んでいらっしゃいますが、どうやってモティベーションをキープされていますか?

やはりクライアントとのふれあいだと思います。予期せず大変な仕事を請け負うこともあります。そんな中でもベストを尽くして対応するのですが、終わった後クライアントからお褒めの言葉をいただいたり、お礼を言われたりすると、やりがいを感じます。自分がいなかったら起こり得なかったコミュニケーションが成立した瞬間は、心から通訳をやっていてよかったと思います。大変な仕事程今でも印象に残っています。一度ワインのセミナーの通訳をやったことがあります。私はワインに詳しい訳ではありませんでしたが、聴衆はワイン通の方ばかりでした。ワインの本を一冊買って丸暗記しました。一週間ぐらい一緒に大変な仕事をしていると、終わった後お客様とチーム意識というか、自分も限界までやったという達成感があります。

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とにかく通訳になるまでは果てしない道のりです。何かに残しておくと、自分が積み重ねたものが目に見えるので、自信と継続力に繋がります。単語帳は作らないという人もいますが、私はマニアック?なくらい単語帳に残します。「この表現がすごいな」と思う表現に出会うと体がぞくぞくするのですが、そういうのをリスト化してモティベーションを高めています。

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Q7、単語帳マニアということですが、何か工夫はされていますか?

工夫という訳ではありませんが、よくお声をかけていただけるクライアントは、クライアント別にまとめてデジタル化しています。ただ一回だけの仕事の場合は、単語をノートに走り書きしています。自分の字で書いたほうが、記憶に残りやすい気がします。単語の(が)繰り返し出てくると、必ず記憶に引っかかってくるようになります。また英語の本来の意味と日本語の意味がずれていたりすると、同通ですぐに出てこないケースも多くあります。そういう時は単語帳にして自分に言い聞かせるように覚えていきます。

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Q8、細谷さんはお客様からリクエストやリピート依頼をたくさんいただきますが、何か心掛けていることがありますか?

私は通訳者になりたいと思ってから実際になるまでの年月がすごく長かったので、仕事ができるだけで嬉しいし、心から楽しんでいます。またそういった場を提供してくださったクライアントにはなるべく満足していただきたいとう気持ちで仕事をしています。そういった気持ちがクライアントに通じているのかも知れません。私は役に立っている、この人に依頼してよかったと思っていただくのが一番の喜びです。そしてこれからはもっといろんな分野に対応できる通訳者になりたいと思います。

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Q9、通訳者を目指している人にメッセージをお願いします。

私も通訳者になるまでの道のりは長かったし、いつも焦っていました。トンネルの中を歩いているような、先が見えないという感覚です。ただあの頃に着実に勉強してきたことが、今現場で役立っています。100勉強しても現場では30ぐらいしか使わないことも多いでしょう。一回、2回の仕事ではあまり役に立たなかったとしても、毎日、毎日仕事を受ける中で、必ず勉強したことは自分に帰ってきます。焦らないで、自分の土台作りをしてください。

編集後記:

偶然私も小さい頃に佐賀県の伊万里市というところで育っているので、とても共感を持ってお話しできました。今は伊万里湾にイマリンビーチというとてもきれいな人口のビーチが出来たそうです。最近は自分の内面を見つめる時間を取っていらっしゃるそうです。外で起こっていることは、自分の内面の投影だという言葉もすごく印象に残りました。

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ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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