第22回 2キロの脂肪と引き換えに
私は数年前の元旦に、ある目標をたてました。それは「今年1年間のうち100回はジョギングをすること」「地元のマラソンに出場する」というものでした。この二つの目標をきっかけに毎日走るようになり、秋の大会ごろまでには体重がスルスルと減っていったのです。高校時代のベスト体重よりも1キロ減という、かつてない快挙を遂げました。着られなかった服もどんどん入るようになり、体も軽くなり、久しぶりに会った友人誰もが「痩せた?」と尋ねるほどです。心身ともども快調でした。体の調子が良い日や休日などは1時間近くジョギングするようになり、好きなものも食べつつ走って燃焼するという日々が続いていたのです。
けれどもそうしたテンションの高さも永遠とは続かないものです。次第に疲れがたまっていったのでしょう。ガンガン走っていたピークのころと比べても走る距離が減るようになり、そのうち「やっぱり私は走るよりも歩く方が好きだから」と「走らない理由」を正当化してはジョギングをさぼるようになりました。昨年秋ぐらいからです。そのうち朝のウォーキングもやったりやらなかったりで、あっという間に体重は元へ戻ってしまいました。さらに筋肉も落ちて脂肪となり、体も重くなってしまったのです。自分の心も重たくなってしまいました。
今までの自分を振り返ってみても、私の場合「これだっ!」と思うと猪突猛進してしまいます。熱中している時は良いのですが、いったん熱が冷めるとあっという間に後退してしまうのです。それでも自分なりにしぶとく続ける「工夫」だけはしてきたのですが、人間は機械ではありませんので、そう簡単にいかないときもあります。続かない自分を情けなく思ったり、体が重くなった自分がルーズに思えたりと、「後ろ向き全力疾走」の時期がここ数週間続きました。
とはいえ、人間というのは不思議なものです。落ちるところまで落ちると、あとははい上がるしかありません。勇気をもって実際に行動に移すのも自分次第なのです。そう思ったらまたやる気が出てきました。幸い5月に入ってからどんどん日の出が早くなり、朝もさわやかな天気が続いています。走ったり歩いたりするにはうってつけの季節です。私は再び走り始めました。ただし今回は無理をせず、自分を追い込まず、「走りたいときは走る。疲れたら歩く。また走ろうかなと思ったら走ってみる」という感じで、緩く緩く行動に移しています。
体を動かさなくなって私は2キロの脂肪を再度入手(?)してしまいましたが、その一方で得たものもいくつかありました。中でも自分にとって大きかったのは「子供たちとの関わり方が好転した」ということです。数年前にマラソンを目指して走り込んでいたころは、「まずは自分の目標ありき。日々の計画最優先」で子供たちよりも自分のことを先に考えてしまっていたのです。ちょうど仕事が忙しかった時期でもあり、仕事や自分のメンテナンスを優先していたのでした。常に神経をピリピリさせ、表面的には「ちゃんと子育てをしています」とふるまいつつも、正面から向き合っていなかったと思います。
大震災があったり、自分自身を見つめ直してみたりといった時期を経て、ようやく私は自分のペースで子育てや生き方に取り組めるようになりました。これからも試行錯誤し、反省しながら、自らを直していきたいと思っています。
【今週の一冊】
「切手であそぶ絵封筒」ニシダシンヤ アスペクト 2011年5月4日
ここ数年、「紙の本か電子書籍か」で様々な議論が展開している。これだけデジタル化している以上、もはや紙の本は必要ないという意見さえ上がっている。私自身は電子辞書よりも紙の辞書というぐらい、「紙で綴じてある本」そのものが好きだ。パッと見開きでたくさんの情報が得られることが最大の理由だが、とにかく紙の手触りやにおいが好きだからだと思う。
だからだろうなと自分でも納得したのが、「なぜ私はここまで手紙を書くのが好きなのか」という問い。電子メールやフェイスブックで友人と連絡を取り合うことももちろんするけれど、やはり紙の手紙を出すのが好きなのだ。季節に応じたポストカードを選んだり、美しいデザインのレターセットに直接文字を書いたりすることが、私にとっては心を落ち着けるひと時なのである。
そのような中、偶然書店で見つけたのが今回ご紹介する一冊。封筒にただ切手を貼るのではなく、封筒の上で切手をレイアウトしたり、絵柄を追加したりするというのが趣旨である。すると封筒が一枚の絵になり、物語が誕生する。「普通の切手でこんなに世界が広がるのか」と、本書をめくっているとただただ感心してしまう。
著者のニシダさんはイラストレーターだが、数年前から切手でこうした工夫をするようになり、ツイッターでも大いに話題になったそうだ。本書に掲載されている美しいデザインを見ると、きっと誰もが手紙を書いて封筒に切手を貼り、投函したくなるのではと思う。
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