INTERPRETATION

第16回 手帳だけでは収まらない

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

今回はノートと手帳に関する話題です。

もともと私は手帳術や時間管理に関することが好きで、これまでも関連書籍を読んだり、セミナーを受けたりしてきました。限られた時間をどのようにして有効活用していくかに大いなる関心を抱いていたのです。その結果、ここ数年は自分の手帳もほぼ一定のものとなり、「月間カレンダー」と「デイリーページ」をシステム手帳に組み立てて使ってきました。かつては「見開き一か月手帳」や「見開き2週間手帳」など、あれこれ試しては続かずにいたのです。手帳というのは、自分のライフステージによって進化するものでもあります。

そのような中、昨年末にあるセミナーを受け、「情報を手帳に一元化する」という理念に大いに共鳴しました。それまで使っていたシステム手帳のリフィルはスペースが少なく、どんなに小さな文字で書いても思い付きメモなどを書ききれませんでした。このため別途B5サイズのノートを持ち歩き、そこに読書記録や原稿のネタなどを記していたのです。けれども複数のノートや手帳を持ち歩くのは面倒です。そんな矢先に受けたセミナーでしたので、「とにかく一冊に収める」というのは大いに理にかなったやり方に思えました。

年が明け、私の手帳には日々の日程はもちろんのこと、ジョギング記録や備忘録、読書記録や感銘を受けたセリフ、日記などが一冊に収められることとなりました。リフィルもこれまでの「1日1ページ」から「1日2ページ」という大きいサイズに変えたため、情報も入りきるようになってきたのです。とにかくこの手帳さえ持ち歩けばOKという状態になりました。あとで振り返る際にも、時系列順に手帳をさかのぼればよいので、とても便利になったのです。おかげでB5ノートは使わずに済むようになりました。

ところが新しいやり方を始めて3か月目にして、一つの関門にぶつかりました。それはやはり前回同様、「スペースが足りなくなってきた」という状況でした。手帳の「今日のページ」を開けば、確かに2ページ分の空白はあり、書くところはたくさんあるように見えます。けれどもやはり色々と書き連ねればあっという間にスペースは終わってしまうのです。予備のリフィルを持ち歩くことも考えました。でもそうすると手帳本体がどんどん重くなってしまいます。

そのような中、ある本に出会いました。岡田斗司夫著「あなたを天才にするスマートノート」です。そこには普通のB5ノートの使い方が具体的に記されていました。その発想と、目標とするところが実に斬新で、私は大いに感化されたのです。そして再び「手帳」と「B5ノート」併用という日々に戻っています。

私なりに出た結論。それは、「枠組みが設けられたような状態よりも、無制限な方が色々と発想が展開する」ということでした。つまり、手のひらサイズの手帳にすべてを押し込もうとすると、のびのびとした発想が難しくなってしまうのです。「手帳の余白に限りがあるから、何とかそこに押し込まないと」という縛りです。しかし、B5ノートならばどんどん書き加えることができますし、罫線を無視してでも大胆に記すことが可能です。大きな図を描いたり矢印を引っ張ったりしても、空白はたっぷりあります。スケジュール手帳のように、「ページをめくったらもう翌日の欄」ということもありません。

実はB5ノートにあるような「無制限の空白」こそが、人間の思考を大きく広げさせるのではないかと思います。確かに手帳に加えてB5ノートを持ち歩くのはかさばります。けれども、「手帳は予定管理用」、「ノートは自分の考えを広げていくための手段」と考えると、わずか100円にしてここまで自分をのびのびとさせてくれるグッズはありません。最近はそんな風に考えるようになり、再びB5ノートを愛用するようになっています。

(2011年3月28日)

【今週の一冊】

「あなたを天才にするスマートノート」岡田斗司夫著、文藝春秋、2010年

今の世の中、スマートフォンが大流行なので、それにちなんだ内容なのかなと思ってしばらく購入せずにいたのだが、実際に書店で手に取ってみたところ、B5ノートをどのように使うかが記されており、興味を抱いて購入。一気に読み終えた。

岡田氏と言えば数年前、レコーディングダイエットで体重を大幅にダウンさせた経験を本に記したことで知られている。今回の書籍もB5ノートを使ってどのように人生を変えるのかということが一貫して述べられていた。

個人的に私は「手書き派」なので、手で何かを書くことにより、自分の思考を整理できるという考えに共鳴する。岡田氏も本書ではそのような理念に基づき、議論を展開していた。

中でも共感したのは以下のくだり。

「脳を効率よく使うことを考えてはいけない」
「人間は機械じゃないんです。」
「あんまり小さなノートを使ってしまうと、ノートを書く分量の最大値が決まってしまいます。ノートの大きさはあんがい自分の思考スケールに比例します。」

特に3つめについては、今回私自身が手帳とB5ノートをどう使い分けるかでしみじみ感じた点だ。手帳の場合、どうしてもスペースが少ないため、思考スケールが小さくなってしまったのだ。それならば1冊100円少々のノートを大胆に使った方が良いはずだ。

岡田氏は、1冊100円のノートを1日2ページ使えば、一日当たりは3円と述べている。そのうえでこう続けている。

「これをもったいながって、どうするんですか?あなたは1日3円の値打ちもない人ではないでしょ?堂々と、毎日2ページ使ってください。」

まさにその通りだと思った強烈な一文だった。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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