第13回 いつ実行するか
先日ご紹介したドミニック・ローホー氏の本(「ゆたかな人生が始まる シンプルリスト」)をきっかけに、私自身、何かをやろうとする際には一歩引いていったん考えてから実行するようになっています。
たとえば家の中がゴチャゴチャになっているのを見て、「掃除をしなければ」と思ったとしましょう。これまでの私は何か頭の中に思いつくと、あえて手帳に書き出し、チェックボックスをつけて「やることリスト」の中に盛り込んでいたのです。こうすることで、あれこれ思いつく事柄を頭の中の記憶装置だけに頼るのではなく、書いてすっきりさせることで効率的な生活を心がけてきました。
私が時間管理にめざめたのは20代後半のころです。そのころは、こうして「やることリスト」をある程度書き出したら、あとは片っ端から片付けていったのです。リストのトップに書かれていることからどんどんこなしてゆく。終了したらチェックボックスにチェックを入れる。一日の終わりにチェック済みのリストが出来上がったのを見ては、「ああ、今日もがんばったなあ」と大いなる達成感に満たされていました。
しかし、仕事や家事育児が多忙になってくるにつれて、「やることリストを上からただこなしていくこと」に限界を覚えるようになりました。たしかにどんどん課題は終了するのですが、優先すべきことがいつまでたっても終えられなかったり、大事なことが後回しになってしまったり、「やらなきゃいけないのはわかっているけれど、やる気にならない」というものが最後の最後まで残ってしまうようになったのです。
そこで次に取り入れたのは、「優先順位をつけること」と「時間割を決めて、やることを実行していく」ということでした。たとえば「朝9時から12時までは仕事の準備」「12時から13時までは昼食、夕食準備」「13時から14時まで買い物」という具合です。学校生活同様、時間割をきっちり作って作業を行うことにより、大分課題がこなせるようになりました。
とはいえ、それでもなお日々の暮らしの中では細々としたことがらが浮上します。たとえば「リビングに置きっぱなしになっている新聞を読まなきゃ」「リビングのソファに置いてある子どもたちの服を片付けなくちゃ」といった事柄です。今までのやり方ならばこうしたことまで手帳に書き出し、優先順位を付けて、時間割の中に落とし込むことをしていました。けれどもそこまでやるだけでもどんどん時間がたってしまうことに気付いたのです。第一、手帳に書くためにリビングをいったん離れて書斎に行くだけでも時間がかかってしまいます。
ローホー氏の著作には「2分以内でできることはすぐやる」と書かれています。とにかく「すぐに」やる方が、「あとで」行うよりもよほど時間を節約できます。確かに一日の終わりに「やることリスト」のチェック済みマークを眺めるのも大いに達成感に結びつきます。しかし、その場その場でしっかりと取り組んで終了させていった方が、大いに気分的にもすっきりすると最近は感じています。
【今週の一冊】
「独学のすすめ」加藤秀俊著、ちくま文庫、2009年
加藤秀俊教授は社会学に関する著作も多数ある評論家。ハワイ大学や学習院大学、放送大学などで教鞭をとっておられた。本書は、どのようにして自力で学ぶべきかが書かれたものである。
私自身、ここ数か月の関心分野に「独学」と「教養教育」がある。かつての日本では、論語や漢文の素読など、いわゆる「読み書きそろばん」の徹底教育が行われた。さらに、さまざまな分野の著作をたくさん読むことで、幅広い教養を身に着けていったのである。旧制高校時代の学生たちや戦前に教育を受けた私たちの祖父母世代などが体験した学びの姿である。
加藤教授の文章は平易で読みやすく、世情をズバリ表すような表現がたくさんあり、実に興味深かった。とりわけ以下の文章が心に残っている。
「学校というのは勉強のための場のひとつであるにすぎない。」
「学校に入らなければ学問はできない、などという思想は、ついこのあいだ出来たばかりの新興思想にすぎない」
「学校は、いわば脱落者救済施設のようなもの」
「大事なのは継続なのである。毎日つづけることである。気まぐれの思いつきでは、なんの効果も期待できない。」
文面だけだとかなり辛辣に聞こえるかもしれない。けれども著者が述べたいのは、「勉強というのはとにかく自分でできるのだ」という、読者へのエールなのである。
昨今は何もかも上が指示したりアドバイスしたりする傾向がみられる。それはそれでいい。けれども、「常に待ちの姿勢」という学びの在り方には私自身、大いに抵抗を覚える。自力で試行錯誤しながら、学ぶ楽しみを見いだす過程そのものが、学びから得られる幸せだと私は信じている。
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