第345回 どうせ現実逃避をするなら
授業や通訳、原稿執筆など、好きな仕事に携わるチャンスをいただけているというのは本当にありがたいと思います。自分が情熱を傾けられる分野で少しでも社会のお役に立てればという思いがあるからです。確かにフリーランスで生きる以上、仕事をしなければ無収入ですし、福利厚生手当は一切ありません。私は「有休」「慶弔休暇」「住宅手当」などとは縁がないのですが、それでも日々幸せを感じられる仕事ができることを考えると、本当に幸せな人生なのだと思います。
「好きなこと」を仕事に日々生きているとは言え、私も人間ですので、気乗りしないときというのはよくあります。たとえば「授業準備をしなければいけないのに今一つやる気が出ない」「テストの採点をせねばとわかっているのだけど、その量に圧倒されている」「喜んで請け負った原稿依頼なのに、一文字も入力できない」という具合です。
要はそのようなときというのは、気力体力が衰えつつある時期なのでしょうね。スタミナ不足ということです。本来であれば休養を取ったり、気分転換を図ったりして切り替えれば良いのでしょう。けれどもそれすら面倒ということもあります。
そのような際、私が陥りがちなのが「ダラダラとインターネットを閲覧する」という行為です。ネットの世界は無限ですので、キーワードを入力しては検索してただひたすら眺めることを繰り返してしまいます。普段なら大して興味のないページをぼーっと眺めてしまうこともあります。ページを見つつ「こんなことしてる場合じゃないでしょ」という声が頭の中をぐるぐると回るのもわかります。
「せっかく手帳にチェックリスト付きでやるべきことを書き出してあるのに、それら何一つ片づけないで、一体何やってるの?」
「こんな状態だから、あとになって焦って慌ててクオリティが下がるのよ」
「ああ、どうして私って意思が弱いんだろう。前もそうだったし、全然進歩してない」
このような感じで自分を責める声やボヤキやら愚痴やらの思いが心の中を占めていくのですね。要は私の場合、ネットを見ることで「やらないための言い訳づくり」と「逃避行動」をしているわけです。
ではどうすれば良いでしょうか?
どうせ逃避するのであれば、
*他人に喜ばれることをする
*自己達成感を抱けるものをする
このようにすれば良いのだと思うようになりました。
たとえば料理が好きなのであれば、ダラダラと不本意なことをして時間を無駄に過ごすのではなく、それこそ山のようにごちそうを作り、家族に食べてもらったり、職場の仲間におすそわけしたりするのでも良いでしょう。お裁縫が好きなのであれば、布地を買ってきて好きなものを作るのでも良いと思います。後悔することをして自己嫌悪に陥るぐらいなら、自分が好きなことをして現実逃避をすれば、自己肯定感も高まると思います。
私の場合、手っ取り早くできる「生産的現実逃避」は掃除と片づけです。とりあえず掃除機をかける、ごちゃついているあれこれのものを整える、不用品を捨てる、斜めにかかっているタオルの端をそろえるということをすると、とても幸せな気持ちになってきます。後悔だらけの現実逃避ではなく、達成感を大いに抱ける現実逃避なのですね。
こうして気分転換が図れれば気持ちも前向きになり、「よし、大変だけど仕事に戻ろう」という思いが沸き上がってきます。まだまだ私自身、発展途上ですが、少しでも進歩できればという思いで毎日を過ごしています。
(2018年3月12日)
【今週の一冊】
“An Illustrated History of Japan” Shigeo Nishimura, Tuttle Publishing, 2005
日本の歴史を時代の流れに沿って説明したのが今回ご紹介する一冊です。原本は福音館書店発行「絵で見る日本の歴史」(西村繁男著、1985年)ですが、直接の英訳ではないのが特徴です。
私は中学2年の途中でイギリスから帰国し、編入した地元中学校の歴史授業では「徳川家康」が取り上げられていました。私にとってはそれ以前の時代を全く学ばないままでしたので、「徳川who?」という状態でしたね。以来、日本史への苦手意識を払拭できないまま大人になってしまったのでした。今でも通説としてとらえられないのです。
このままではいけないと思い立ち、手に取ったのが本書です。読み方のポイントは、日本語の原本と英語の本書を比べて読むこと。1ページずつ開いて並べて読むという方法です。日本語の説明文が簡潔な一方、英語版はかなり詳しく綴られています。おかげで日本語版ではうかがい知ることのできなかった細かい史実を英語版で吸収できました。
なお、日本語版には巻末に著者の西村氏が絵の部分の詳細な説明を加えています。日本の歴史を古代から現代まで鳥瞰図的に眺めたい方、西村氏の美しい絵を堪能したい方など、年齢や興味を問わずすべての方にお勧めしたい一冊です。
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