INTERPRETATION

第342回 楽しむのなら堂々と

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

時間をいかに有効に使うかは誰にとっても永遠の課題です。と言いますのも、書店へ行けば手帳術、時間管理術といった本がたくさん並んでいるからです。

私は数年前、読みたい本が積読状態になっていながら一向に読み進めることができない状況に直面していました。書店へ行けばついつい目新しい本を買ってしまう。それでいて自宅の本棚には読んでいない本がぎゅうぎゅう詰め。背表紙を見るたびに「早く読まねば」と焦るばかりでまったく片付かなかったのです。

ようやく「それでは」と本棚から取り出してはみたものの、「はて、一体なぜ私はこの本を買ったのかしら?」と思う始末。当初の興味はどこへやら。このようになるとページをめくるスピードも遅くなり、結局は古書店へ出すことになってしまいました。

なぜこのような状態になってしまったのでしょうか?

それは、当時はまっていたSNSでした。具体的にはFacebookです。

当時はFacebookが流行し始めたころで、友人がどんどん加入していた時期でした。「あ、あの友達もいる!」「わあ、小学校時代のこの子も!」という具合。探せば探すほど懐かしい名前が出てきます。再び接点を持ち、近況を報告し合うまではよかったのですが、そのうちFacebookをひたすら見つめる時間が加速度的に増えてしまいました。一度計ってみたところ、一日当たり累計で2時間は優に超えていましたね。読書タイムが削られてしまったのも致し方のないことでした。

自宅で通訳準備をしていても友人の動向が気になってしまい、「息抜き」と自己正当化してページを眺め始めてしまう。そして気が付けば数十分が経過し、自己嫌悪。

この繰り返しが続いたのです。

そこである日、意を決し退会したのでした。

もちろん、私のようにズルズルと流されず、けじめをつけて見られる人はたくさんいるはずです。私の場合、ポイントとなったのは「時間のロス」に加えて、閲覧直後に感じる「罪悪感」、そして何よりも「眺めていてもさほど楽しくない」という3点でした。

これはダイエットでも同じだと思います。「ちょっと食べすぎたけれどおいしかった。これが食べられて幸せ。今日はサイコー」と思えるのであれば、多少ハメを外してもそれは許されるはずです。けれども「ああ、これを食べたからさっきのジョギングはパー。これで400カロリーも摂ってしまった。どーして私は意思が弱いんだろう」と自己嫌悪に陥り、さらにストレスで無茶食いすれば何のためのダイエットかわからなくなります。

要は「楽しむのならば堂々と」ということなのですよね。それこそ正々堂々とエンジョイして、「よし、また明日から頑張ろう」と思えた方が健康的だと思います。私の場合、ことSNSではそれができなかったため退会したわけですが、楽しめるのであればとことん楽しむ。中途半端に自己嫌悪になるぐらいなら、どこかで自分なりにけじめをつけるしかないのではと感じています。

(2018年2月19日)

【今週の一冊】

「子どもの本のカレンダー 増補改訂版」 鳥越信・生駒幸子編著、創元社、2009年

気が付けば2月ももう半ば。カレンダーを次にめくればもう3月がやってきます。私はなるべく物を増やしたくないため、カレンダーは飾っていません。けれどもカレンダーのデザインを眺めるのは好きで、大学の講師室や銀行、公共施設などにかけられているカレンダーをしげしげと見つめてしまいます。そういえば大学生のころ、ゼミの仲間が「一週間の初めは日曜日?月曜日?どっちだろう?」と真剣に考えこんでいましたっけ。暦というのはロマンがありますよね。

今回ご紹介するのは、1年366日の日付が出てくる絵本をまとめた一冊です。子ども向けの絵本や小説、漫画などが取り上げられており、各作品の中に出てくる日付に基づいて紹介されています。たとえばこのコラムがアップロードされる2月19日のページでは遠藤みえ子著「ブルーバースデー」(講談社、1998年)が出ています。筋書を読むと、この小説の主人公が2月19日に長い手紙を書いたのだそうです。

この本の初版は1996年ですが、増補改訂版は2009年の発行。よって紹介されている作品も新しいものが見受けられます。私が知らない本もたくさんありますが、それがかえって新鮮で、次世代の子どもたちがどのような本に親しんでいるかわかります。

ちなみに今年のセンター試験で何かと話題になったムーミンも本書には出ています。8月7日のページです。書籍名は「ムーミン谷の彗星」(トーベ・ヤンソン著、講談社、1990年)です。ムーミントロールがとある学者から「8月7日午後8時42分、赤い彗星が地球に衝突する」と聞かされるシーンが出てくるそうです。

身近なお子さんやご自分の誕生日に合わせて、ここに紹介されている本を手に取ってみるのも楽しいでしょうね。「誕生日辞典」や「名言集」のような感じで味わえる一冊です。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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