第340回 やっぱりインフル
このコラムは毎週5週目が休載ですので、2週間ぶりのアップとなりました。気がつけばもう2月。前回のコラムでは「インフルではなかった」と締めくくっていたのですが、あにはからんや、「B型インフルエンザ」でした!私は10年以上インフルとは無縁でしたのでその旨を医師にお話しすると、「自分では気づかずに治してしまう人もいますよ」とのこと。うーん、ということは、過去に気合で風邪を乗り切ったのももしかしてと思う次第です。
今回は病院でタミフルを処方され、家で数日間おとなしく過ごしました。仕事もキャンセルせざるを得ず、非常に心苦しく思いましたね。でもエージェントの皆さんのおかげで迅速にピンチヒッターの方が入ってくださり、助かりました。感謝あるのみです。
日頃私は「外に出て仕事をする」という生活スタイルを築いている分、自宅で何もせずじっとしているのはある意味で新鮮、別の意味では非常に手持無沙汰でした。何よりも、大好きな放送通訳を休んでしまったのが自分にとっては残念だったのです。BBCワールド唯一の日本人特派員Mariko Oiさんが自らをnews junkieと称しておられましたが、私もそのような気分です。
さて、インフルエンザという急遽与えられた休養命令により、数日間布団の中で過ごすことになったわけですが、せっかくなので睡眠時以外に何かやってみようと思い立ちました。日頃忙しくて取り組めないことにチャレンジしたくなったのです。
プロジェクト一つ目は「ロイヤル英文法」の例文を読むこと。これはたまたまとあるサイトで例文を読破なさった方の記事を読み、私も取り組んでみたくなったのです。膨大なページ数ですので、ゆるゆる進めようと考えました。
2つ目は「電子辞書に親しむこと」。数週間前に電子辞書を買い換え、今、愛用しているのはカシオ EX-wordのDATAPLUS10です。先代と比べてもはるかにコンテンツ数が多いため、せっかくですので全ての辞書に親しもうと思ったのです。
3つ目は「AM放送を聞くこと」です。ラジオはもともと大好きなのですが、いつもAFNの定時英語ニュースで情報収集をしたり、NHKの日本語ニュースをシャドーイングしたりするぐらいにとどまっています。ラジオであれば寝床でも聞けますし、こうして時間がたっぷりあるのはまたとないチャンス。普段はダイヤルを合わせない民放のAM放送をあえて聞くことにしました。
上記3大プロジェクトはいずれも楽しく進められましたね。ポイントは体調に応じてのんびりと行うこと。せっかくインフルエンザから回復しようと体が頑張っているのに、別のところで体力を消耗しては元も子もないからです。
「ロイヤル英文法」に関しては、大きな発見がありました。我が家にあるのは旧版で1980年代発行のものです。よって例文もpolicemanなどジェンダー面で今ならNGのものも見受けられました。改めて例文を読み進めてみると、その一方で自分が知らなかったフレーズや文法項目がたくさんあることもわかり、勉強になりましたね。電子辞書に改定新版が搭載されているため、同じ個所を読み比べているのですが、修正された例文についても発見がありました。
一方、2つ目の電子辞書遊びは本当に楽しく、「自分は電子辞書holic」なのではと思ってしまうくらい、ハマりました。まず、具体的にどのような辞書が搭載されているのか、改めて一冊ずつ確認しました。とにかく膨大な量です。それだけでも時間がかかったのですが、さらに面白かったのは各辞書の「序文」と「著作権」を読むことでした。「著作権」ボタンを押すと、発行年と収録語数が出てきます。ランダムハウスは34万5千語、リーダーズは28万、ウィズダム英和は10万ぐらいという具合に、各辞書の単語数がわかっただけでも楽しめました。「序文」の方は各辞書の編纂者がどのような思いでその辞書を生み出したかが書かれています。いわば決意表明文(?)のような感じで、編集チームの苦労が想像できます。
3点目の民放ラジオに関しては、こちらも楽しめましたね。CMが独特だったり、ラジオショッピングが流れたりと普段耳にしていない番組編成を興味深く思いました。こうした「楽しみ」を発見できたと考えれば、今回ダウンしたのもそう悪くはなかったのかもしれません。
最後に一つ。
電子辞書には英英辞典もたくさん収容されているのですが、疑問に思ったことがあります。それは英語の辞書名と日本語の辞書名が今一つ合致しない点です。たとえばOxford Advanced Learners’ Dictionaryの邦題は「オックスフォード現代英英辞典」。Oxford Dictionary of Englishは「オックスフォード新英英辞典」。Oxford Learner’s Wordfinder Dictionaryは「オックスフォード英英活用辞典」となっており、英語書名と日本語名が微妙に違います。特にAdvanced Learners’ Dictionaryは上級学習者向けの辞書なのですが、日本語は「現代英英辞典」です。Dictionary of Englishも日本語では「新」英英辞典とあります。うーん、なぜ?
Wordfinder Dictionaryは「英英活用辞典」ですが、同じく搭載されている研究社の「新編英和活用大辞典」の英語名はThe Kenkyusha Dictionary of English Collocationsです。Oxford Collocations Dictionary for students of Englishは「オックスフォード連語辞典」とあります。何だかややこしくなってきましたね。
・・・ここまで書き連ねている自分を客観視してみると、インフルエンザで療養中だと言うのに固有名詞の正式訳にこだわるあたり、我ながらおかしくなってしまいます。
何にせよ体力第一のこの仕事。皆様も寒い毎日が続きますのでご自愛くださいね!
【今週の一冊】
「アメリカ大統領図鑑」 米国大統領研究編纂所・開発社著、秀和システム、2017年
放送通訳の現場では連日トランプ大統領のニュースが出てきます。外交問題から貿易、そしてもちろん、おなじみのツイッターに至るまで何かと話題豊富の昨今です。今年は中間選挙も開催されますので、アメリカ政治からは目が離せそうにありません。ゆえに今回ご紹介するのは歴代大統領を網羅した一冊。過去から私たちは何を学べるのか、アメリカとはどのようなリーダーが国を作ってきたのかを知る上では格好の書籍と言えます。
初代大統領のワシントンから現大統領のトランプ氏に至るまで、見開き2ページないし4ページでコンパクトにまとめられています。左下には「大統領の成績表」というチャートがあり、実行力、政治力、知力、カリスマ性及び決断力の側面から判定したものもあります。こうして眺めてみると、どの素質も完璧という大統領はおらず、長所短所は誰にでも備わっているものであり、大統領ももちろんそうなのだということを改めて感じます。
どの大統領もそれぞれ個性があるのですが、中でも私は二人の大統領に注目しました。一人目は第20代のガーフィールド大統領(任期1881年3月から9月まで)。当時のアメリカは資本主義が急激に発展し、富裕階級が拝金主義に陥り、産業界と政財界の癒着や汚職が蔓延していました。ガーフィールド大統領は結局、就任からわずか4か月目にして支持者から暗殺されてしまうのです。在職中に暗殺されたのはリンカーンに次いで二人目となりました。
もう一人は第29代ハーディング大統領(任期1921年3月から1923年8月まで)。こちらも富裕層や大企業を優遇し、スキャンダルにまみれました。アラスカを遊説後に立ち寄ったホテルで急死しています。浮気があまりにも多く、その最期は夫人による毒殺ではともささやかれています。
歴史から人は多くのことを学べます。本書を通じて今のアメリカが見えてくるかもしれませんね。
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