第336回 epidemic? pandemic? endemic?
以前、環境問題の国際会議で事前予習をしていたときのこと。deforestation、reforestation、afforestationという3つの単語が出てきました。森林伐採や植林に関する単語にも色々とあるのですよね。単語帳を作りながら必死に覚えたことを思い出します。
他にも私にとってゴチャゴチャになりやすい単語は幾つかあります。kidneyとliver、strategyとtacticsもその一例です。また、直近のCNNニュースでは「トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と承認した」という話題があったのですが、これも私の中では混同しやすい固有名詞です。「イスラエルをエルサレムの首都と承認した」とつい言いかけてしまい、焦ったこともありました。
まだまだあります。以前、通訳の指導をしていた際、教材で感染症の話が取り上げられたときも、こんがらがってしまったのです。出てきた単語はepidemic、pandemic、endemicでした。
endemicは「特定の地域」がメインなのに対して、epidemicは「ある地域で急激に増えている」状況、pandemicは「全世界的」という規模の伝染病です。いずれもdemicはギリシャ語のdemos(人々)から来ています。demosはdemocracyのdemosです。ちなみにdemonstrationの方はラテン語のmonstro(示す)から来ています。単語を覚える際には、このようにして意味だけでなく、例文を音読したり、語源を調べたりして、それこそ五感をフル活用して覚えるようにはしています。それでも人間というのは物事を忘れる生き物です。完全に記憶しようとすると辛くなってしまいます。よって、「忘れても良い」という前提条件で日々の通訳業務にあたるようにしています。
ところで「伝染」で思い出したことがあります。「通訳現場で通訳者はどこまで話者のテンションと同一化すべきか」という課題です。話者の話し方や気合が通訳者に伝染し、その状態で通訳した方が良いのか、それとも通訳者はあくまでも通訳する「文言」そのものに集中すべきであり、それこそ喜怒哀楽の部分にまで「感染」すべきでないととらえるか、迷うからです。
私個人としては、楽しい状況下での通訳作業であれば、大いに通訳者もその雰囲気を声に載せるべきだと考えます。たとえばレセプション通訳や華やかな記者会見の場などであれば、通訳者が一人淡々と訳していては白けてしまうからです。話者が熱い思いを持って何かを伝えたいのであれば、やはり言葉以上に込められたメッセージそのものを聞き手に伝達させるのが通訳者の使命であると考えます。
では、「怒り」の場合はどうでしょうか?これも迷うところです。ずいぶん前に、来日したお客様が訪問先企業へクレームをしに行くという状況下で通訳を仰せつかったことがあります。お客様の方はかなりのご立腹。何としてもそのビジネスミーティングで先方から有利な条件を引き出したいのは明らかでした。一方、お訪ねした会社側と言えば、その提案を受け入れる心積もりは一切ない状況だったのです。
その時私があえてとった行動は、「お客様のご不満を言葉で伝えつつ、私も一緒にヒートアップはしない」というものでした。なぜかと言いますと、もし私も一緒にテンション高く通訳してしまうと、雰囲気がさらに悪化し、双方が同時に話し出してしまう恐れがあったからです。そうなりますと、逐次通訳の場合、2人以上の声をすべて拾って訳すことはできなくなります。あくまでもone at a time, pleaseというのが、より良い通訳をする上では絶対条件です。
あえてテンションを上げずに通訳していたことが少しは寄与したのか、時間の経過とともにお客様の興奮も収まっていきました。おかげで私も早口や威圧的な言動を耳にすることなく、その日は通訳業務を終えることができたのです。今でもあのときの選択は正しかったと思っています。
そう考えると、場の空気というのは本当に「伝染する」のだと感じます。これは通訳現場に限りません。クラス運営をする上での教室しかり、家庭の中しかりです。今年一年を振り返ってみて、果たして自分は「良き空気」を「伝染させる」ことはできていただろうかと自省してしまいます。理想に届かなかった部分は潔く認めて反省するしかありません。来年に向けて気分も新たに歩み続けることが最大の解決策だと思っています。
今年もご愛読、ありがとうございました。セミナー会場などで「『ひよこたちへ』、いつも読んでいます!」との嬉しいフィードバックも頂きました。心より感謝しています。来年は1月9日火曜日にアップする予定です。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
皆さまにとって2018年も幸せいっぱいの一年となりますように!
【今週の一冊】
「からだにおいしい野菜の便利帳 世界の野菜レシピ」 高橋書店編集部編、高橋書店、2010年
最近はインターネット上でレシピのサイトが充実していますよね。食材名を入力すれば、あっという間にたくさんのレシピがヒットします。余った食材やスパイスをどう使い切るか困っている時など便利ですし、忙しい毎日の食事作りにも活躍してくれるので本当に重宝しています。ネットの長所は必要とする情報をピンポイントで探し出すことですので、時間が足りないときはありがたい存在です。
ただし、特に当てもないときにネットを検索し始めると、大いなる時間泥棒となってしまいます。あーでもない、こーでもないと気分もあちこちに飛び始めると収拾がつかなくなるのです。「はて、最初に検索し始めたのは何だったかしら?」と立ち止まるころには、すでに膨大な時間を失ったことになります。私にとっては要注意です。
ですので、「何となく眺めたい」という心境の時こそ、書籍の出番だと私は考えます。ペラペラとめくったとしても、インターネットほど時間を費やすことはありません。書籍には1ページ目から最終頁までという区切りがあるからです。アイデアを探し出したり、単に息抜きのために眺めたりできるのが書籍の長所だと思います。
今回ご紹介するのは、そのような心境の時に入手した一冊です。世界各地の野菜が紹介されており、レシピに加えて巻末には細かな索引も付いています。私は「索引」というものがとにかく好きで、どのような本であれ、後ろにインデックスが付いているだけでその本の価値は格段にアップすると考えます。本書も単に野菜紹介やレシピに留まらず、学名や分類なども細かく出ています。まさに学術的な価値のある一冊です。
頁をめくってみると、日本で入手できるおなじみの野菜もあれば、現地ならではの食材も見られます。写真もすべてカラーで、レシピも国旗・国名と合わせて紹介されています。
たとえば私にとってrhubarb(ルバーブ)は、幼少期のイギリス時代を思い出す食材です。本書にはこの珍しい野菜も出ています。説明を読むと、漢方薬の一種で整腸作用があることがわかります。他にもjackfruit(ジャックフルーツ)という世界最大のフルーツについても初めて知りました。
ところで小松菜はkomatsuna、たかなはtakana、ゆずもyuzuと表記されています。そのまま英語になっているのですね。一方、クウシンサイはwater spinachとありました。漢字では「空心菜・空芯菜」ですが、英語の場合はwaterが付くあたり、興味深く思います。
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