INTERPRETATION

第9回 ポイントカードをやめてみた

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

みなさんはポイントカードをお持ちですか?最近はスーパー、交通機関や飲食店など、ほとんどの業種においてポイントカードが発行されていますよね。場合によってはポイントカードが存在しないのは通訳業界ぐらいかもしれません。「通訳エージェントから仕事をアサインされて一回通訳をしたら1ポイント!業務の難易度によっては5ポイント。繁忙期はポイント10倍!!」「クライアントさんのアンケート結果を数値化して、ポイントに加算」「たまったポイントで商品をGET!通訳用ノートや書きやすいボールペン、iPadや電子辞書など、豪華賞品もズラリ!!」などとなったら、どんな感じかなあなどと勝手に想像しています。

脱線はこれぐらいにして、今回は私がポイントカードをやめてみたというお話をしていきましょう。

もともと私はポイントをためるという行為自体が好きで、せっせとカードを発行してもらってはためていたことがありました。幼少期にはベルマークを切り取って学校へ寄付していましたし、ロータスクーポンやグリーンスタンプ(若い世代の方には初耳かもしれませんね)などを集めては商品と交換するなど、何かが目に見えてたまっていくということ自体が好きだったからかもしれません。

ところが近年は、出先でたまたま立ち寄った店舗でも「ポイントカードはお持ちですか?」と決まり文句のように聞かれる始末。出張先でもう二度と訪れることがないようなお店でも、つい作ってもらっていたのです。一時期、カードがお財布の中でパンパンになってしまい、カードを入れるためだけにわざわざお財布を新調したこともありました。もちろん、お財布の入った鞄はドドンと重くなりました。

その後私自身、生活や時間を効率化するに当たり、色々な本を読んだ結果、とにかくモノを減らさなければ目の前のカオスはなくならないとの結論に至りました。その一環として、思い切ってポイントカードを処分することにしたのです。

結局お財布の中に常備することにしたのは、週1回以上必ず立ち寄るスーパー、書店、雑貨店の3枚。一方、美容院や鍼灸サロンなど月1回ぐらいの場所のカードは自宅の名刺箱に保管することにしました。これでずいぶんお財布も名刺箱もスリム化されました。

中でも最大の効用は、私自身の「心」が軽くなったことです。以前はポイントカードがあるという理由だけで、たとえば薬を買う際にも目の前の薬局ではなく、わざわざ遠回りしてポイントカードが使える店舗まで足を運んでいました。けれどもこうしたことを続けていると、時間がどんどんなくなってしまうのです。

大切なのは、限られた時間を自由に使うことだと私は考えます。だからこそ、ポイントカードに縛られず、たまたま目の前にある新しい店舗を開拓することを楽しみとしたいと思っています。身も心も自由にすることで、小さなストレスをため込まないようにしていこうと思う次第です。

(2011年2月7日)

【今週の一冊】

「幸福論」三谷隆正著、岩波文庫、1992年

私の敬愛する精神医学者の神谷美恵子氏は、その著作の中で頻繁に三谷隆正先生について触れている。彼女に多大な影響を及ぼした人物であることはわかっていたが、具体的にどのような分野の方なのかは今一つ把握できていなかった。

そのような中、ようやく見つけたのが本書である。三谷氏は法哲学者であり、1889年の生まれ。1944年に亡くなるまで、人はいかに生きるべきかを探求していた。一高時代には新渡戸稲造の薫陶も受けている。

本書の中で印象的だったのは、「人間は生きるべき使命を持って生まれて来たのだ」という一文。私たちはつい目の前のことに悩まされ、心を乱されてしまう。しかし、もっと大局観的にとらえて自分にはどのような使命があるのかを考える必要性を私自身、この文章から解釈した。

「人生のための健康であって、健康のための人生ではない。(中略)ただ健康にのみ奉仕するような生き方をするのは、またさせるのは、本末転倒の甚だしいものである。」(214ページ)

この文章の「健康」に「仕事」「英語学習」「ダイエット」などを当てはめることもできるであろう。自分自身が幸せに生きるためにどうすべきかがこの文からはわかる。

外国語を学ぶことは己を知り、自らを磨くことにつながると唱える三谷氏。英語や通訳の業務を通じて、私自身、どうありたいか、そしてどのように社会にそれを還元できるか、これからも考え続けたい。

Written by

記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

END