第334回 メッセージを伝えるには
本当は良くないのでしょうけれど、私の場合、メールの一斉送信で企業から「重要なお知らせ」「システムメンテナンスによるサービスの停止」といったお知らせが届いても、じっくりと読むことはまずありません。大事な内容であると承知してはいるのですが、不特定多数向けに送信されているとなると、なぜか他人ごとに思えてくるのです。よってわざわざ丁寧に読まなくても良いかなあと、つい斜め読みになってしまいます。ひどい時など、メールを開封して即削除です。
なぜこのようなアプローチをするのでしょうか?私なりの理由として考えられるのは、そうしたメールが私にとって大切だとあまり感じられないからなのですね。「これはシバハラサナエさんにとって本当に大切な内容ですよ」というものであれば、あえて私の個人メールアドレスを「送信者リスト」に表示し、メール本文にも宛名が書かれているはずだからです。そうではなく、一斉送信で送られてきたものというのは、「いざその情報が必要になった時は、その企業のHPを見れば何とかなる」と思えてしまうのですね。根拠のない確信です。
そんなことを考えながらふと思い出しました。街中で聞こえてくる音声案内です。電車内や駅のアナウンス、エスカレーター乗降時の注意など、今私たちの身の回りには沢山の音があります。私が通うスポーツクラブでも駐車・駐輪を始め、マナーに関する諸注意アナウンスが頻繁に流れています。私の場合、ほぼ聞き流しです。同様に、郵便受けに入っているダイレクトメールも、既成の印刷モノであれば読まずじまいです。
もし世間の大半が私のような感覚で対応している場合、サービス提供者は「本当に相手へメッセージを伝えたい」ということを真剣に考えるべきなのでしょう。せっかくお金をかけてダイレクトメールを印刷・郵送したり、声優さんを雇って自動音声を吹き込んだりしても、誰も注目してくれないのであれば、お金の無駄遣いだからです。
では、どういう方法が良いのでしょうか?「自動」に代わる方法としては「個人」が「直接」行動することだと思います。アナウンスであれば、担当者が肉声で行い、文書であれば、ダイレクトメールの代わりに個人宛のお手紙ということになります。郵便で伝わらないならば、直接相手と会うことがより効果を持つことになります。もっとも今は誰もが忙しいですし、メール全盛期であるがゆえに電話をかけることすら憚られるという時代です。そうなると、コミュニケーションについて私たちは一層深く考えなければいけないと思うのです。
通訳の世界も同様です。AIの進歩が目覚ましい中、自動同時通訳機が到来する日もそう遠くありません。すでにAIは様々な分野で台頭しており、ロボットが応対するホテルや介護現場、観光案内などでおなじみとなっています。「いつかそういう時代が来るかも」ではもはやなく、「どれぐらいAIが浸透してくるか」「どのようにして私たち人間はAIと共存すべきか」を考える時期に来ているのです。
ところで私は仕事柄、肩や首の凝りに悩まされているため、定期的にマッサージの施術を受けています。微妙な感覚はマッサージ師さんにしかできないと感じます。お店の雰囲気やスタッフさんのお人柄、そして素晴らしい施術があるからこそ、サービスを受けた後は元気を取り戻すことができます。そうした繊細な部分をAIがどこまで将来的にできるかなのですよね。
これは通訳者も同じだと思うのです。クライアントが通訳者と接することで日本に対して良い思い出を本国に持ち帰ることができたり、ちょっとした気配りを通訳者が示したりということができる方が、究極の「サービス」としてご満足いただけると思うのです。そして、そのような繊細さを発揮するのは、人間が得意とすることだと私は考えます。
だからこそ、お客様が本当に満足して下さるような通訳者をめざして自己研さんを続けたいと思います。
【今週の一冊】
「陶磁器インヨーロッパ―ワンテーマ海外旅行」 前田正明監修、弘済出版社、1995年
「今日は疲れているなあ」という日、私は軽めの内容の本を読みます。写真集やイラストブックなど、見るだけで和みますし、新聞や雑誌なども斜め読みできるという気楽さがあります。日中、放送通訳現場でテレビ画面ばかり見ており、自宅でもコンピュータ作業が多いため、なるべく寝る前はデジタルから離れたいと思っているのです。
今回ご紹介する一冊も、肩肘張らずに読めるものです。発行年は少し前ですが、かわいいイラストや美しい写真でヨーロッパの陶磁器が紹介されています。ページをめくるだけで旅気分を味わえます。ちなみに私は自宅で使うお皿もシンプルにしたいため、ノーブランドの白いプレートの類しか持たないのですが、美しく歴史のあるヨーロッパ陶器には憧れます。
本書にはイタリアやフランス、オランダにドイツなど、有名な陶磁器生産国が紹介されています。私が中でも興味を抱いたのがイギリスでした。イギリスは産業革命の発祥地。それを機に作陶技術も飛躍していったそうです。
ところでイギリスの陶器王と言えばジョサイア・ウェッジウッドが有名です。生まれたのは1730年。幼児期に天然痘を患い、幼くして父親を亡くすなど、苦労人でした。しかも32歳の時には病気になり、天然痘にかかった右足を切断せざるを得なくなったそうです。その際、医師を通じて知り合ったのがトーマス・ベントレー。後に盟友として共同経営者になり、ウェッジウッドは発展を遂げていったと本書には記されています。
ちなみにウェッジウッドの孫はチャールズ・ダーウィン。そう、「種の起源」の著者です。
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