INTERPRETATION

第7回 仕事はともに作ってゆくもの

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

私は大学卒業後、一般企業に就職し、その後、転職や留学を経て本格的な通訳業に就きました。最近は放送通訳業をメインに通訳学校などでの指導と執筆業を大きな三本柱にしてフリーランスで仕事を続けています。

けれども「フリーランス=なんでもマイペース」というわけにはいきません。なぜなら仕事というのは必ず人とともに作ってゆくものだからです。私自身、これまで仕事を通じて多くの素晴らしい方々に出会ってきました。クライアントさんやコーディネーターの方々など、色々な方との接点があったのです。そこで今回はそうした方々に共通する10項目をご紹介しましょう。

1.礼儀正しい
電話口であれメール本文であれ、正しい日本語を使いこなせる人は好感が持てます。社会人の第一歩として求められる項目だと私は感じています。

2.明るい
どのような状況に陥ってもパニックせず、常ににこやかな方はこちらを安心させます。難しい状況に陥った時、そこからどう打開すればベストかを常に考えるタイプです。

3.頭の回転が速い
これは勉強の出来不出来とは別です。問題解決能力と言った方が正しいかもしれません。

4.ごり押しや無理強いをしない
たとえば何かを依頼する際、「これができるのはあなたしかいない」と言うことで業務が成立することは可能です。けれども本当に適材適所かどうか考えることも必要だと思います。

5.レスポンスが速い
メールや電話の返信が速いことは信頼に結びつきます。

6.長所を引き出そうとしている
たとえば通訳者をアサインする際、その通訳者の専門が何かを常に考え、強みが最大限発揮できるようなマッチングをすることは、顧客満足につながります。

7.仕事の全体像が見えている
短絡的に「この企画書を通したい」というだけでは、プロジェクトの全体像がぼやけてしまいます。会社としてどう進めていきたいのか、常に大局観的なとらえ方が求められます。

8.顧客満足を第一にする
クライアントが求めることは何かを常に考え、当初と異なる展開になった際には勇気をもって軌道修正することが大切です。

9.会社のミッションを理解している
ただ単に今日一日の仕事をこなすのではなく、自分の所属する企業のミッションは何かを常に頭に描くことで、自分の仕事の位置づけは大きく変わってきます。

10.自分なりの使命感を持っている
会社の理念、そして自分の社会人としての使命感を有することで、自分の仕事がひいては社会に貢献することにつながっていきます。

以上、10個のポイントを列記してみました。これらはいずれも私自身が社会人として常に心掛けなければならないものと思っています。お互いがこうしたマインドを持つことで、より良い仕事に結びつき、それが長期的には誰かのお役にたてる。そんな社会になることを私は願っています。

(2011年1月24日)

【今週の一冊】

「知楽遊学シリーズ NHK仕事学のすすめ」日本放送出版協会、2010年

本書はNHK教育テレビで2010年12月から2011年1月にかけて放映された内容を文書化したものである。12月の回では元伊藤忠商事会長の丹羽宇一郎氏が、1月には亀田総合病院院長の亀田信介氏が掲載されている。

私は番組自体を見そびれてしまったのだが、テキストだけでも得るものが非常にあった。商社と病院という、一見関連のなさそうな分野ではあるが、両氏がそれぞれ語っていることはどの業界にも当てはまる。また、学び続ける大切さや新しいことに挑戦する勇気など、どのような立場にいても私たちに共通する人生上のヒントが色々と掲載されていた。

各氏のポイントをまとめてみると下記のようになる。

*丹羽氏:いつも誠実であること、学び続けること、読書、その分野の専門を極めること、今できることはすぐやる、世のために尽くす、教養を深める

*亀田氏:Always say yes、仕事は最高の趣味のはず、信頼関係=満足度、現状にしがみつかずに新しいことへ挑戦する、やりながら考える、リーダーは常に明るく夢を見続けろ、失敗を許さない環境は最悪

中でも亀田氏の次の文章が印象に残った。「今私たちが行っている医療というのは、10年前とは全然違うものですし、10年後も違うことは明らかです。」つまり、世の中や技術が変化し、ユーザーの要望も時代と共に変化する以上、サービスを提供する側もそれに応じなければならない、というのである。

通訳業界も過去を振り返ってみれば様々な変化に直面しながら時代と共に変遷してきた。今後10年を見据えながら、私たち通訳者はどうあるべきか、考えるときに来ていると私は感じている。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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