第296回 ライフプラン
先日、郵便局で保険関連の手続きをしました。終了後、局員の方が「せっかくですので新商品のご紹介を」ということで、我が家の家族全員分の年齢が今後20年分見渡せるようなチャートを印刷してくださったのです。5年後10年後に誰が何歳になっているのか、その観点から見てどの商品がお勧めかという内容が一目でわかるものでした。私はエッセイスト・松浦弥太郎さんの「今日もていねいに」という一言が好きで、毎日を真剣に生きたいと思っています。ですので、これまであまりにも先のことについては考えてこなかったのですね。ゆえにこのチャートで自分の10年20年後の年齢を見た際には、なかなかのインパクトを感じました。それがきっかけとなり、これまでの自分を振り返ってみることにしたのです。
インターネットで調べたところ、「誕生」から数十年後までを一気に見渡せるライフプランのようなエクセル・チャートがあることを知り、早速ダウンロードして書き込んでみました。いつどこで何をしていたかという自分のヒストリーを振り返ることができますし、家族の年齢や家庭内の出来事を書く欄もあります。また、過去の世界・日本情勢もすでに記入済みですので、まさに自分がこれまで生きてきた時代を歴史年表のようにしてとらえることもできます。
こうして自らを省みてみると、無邪気に過ごした子ども時代もあれば、できれば記憶の奥底に投げ捨てて(?)しまいたい時期が自分の人生にはあったこともわかります。けれども「今」というのは、このような過去の集大成なのですよね。「あんな辛い出来事はもうたくさん~~」ということがあったからこそ、今こうして生きていられるのだと感じます。あのとき自分なりに悩んだりグチグチ言ったりしたこともすべて、今の自分の糧となっている。そう私は信じています。
「私が○○歳になると子どもたちは△△歳になるのか~」「2020年東京オリンピックってもっと先だと思っていたけれど、あと3年なのね」「北陸新幹線の金沢―新大阪延伸は2030年などと報じられていたけれど、その頃自分の年齢は何歳かしら?」「今のままで原油を使い続けたら2052年には枯渇と言われているけれど、その頃の家族は何歳?」という観点で見てみると、とても他人ごとには思えなくなってきます。
けれどもあまり先のことばかりを心配しては身が持ちません。大事なのは、与えられた環境と命に感謝して、出来る限り幸せに生きるしかないということです。日ごろ世界の紛争や自然災害などのニュースを通訳している分、今、こうして安心と安全を当たり前のように享受できているのは多くの偶然と運の積み重ねだと私は考えます。だからこそ自分ができることは何かを考えると、直接的・間接的な形でその恩を社会に還元するべきだと思うのですね。
とは言え、日々の生活があわただしいと、私もついつい物事に振り回されてしまいます。周囲の些細な言動や空気を深読みしてしまうのです。相手は全く悪意がなかったとしても、一人合点でくたびれてしまいます。これでは心身に良くありません。ゆえに物事に対する自分の反応というものは「実害の有無」で考えるべきであり、「空想力」で早とちりしてはいけないと痛感しています。実害というのは、それこそ肉体的な危害を受けたりこちらの時間を物理的に奪われたりというものです。それ以外は「私のとらえ方」にかかっていますので、勝手に深読みなどしなければ実害はゼロということになるのです。
今回、郵便局へ出かけたことを機にライフプランについて改めて考えることができました。自らの人生を立ち止まって考えるきっかけとなり、本当に良かったと思っています。
・・・でも郵便局さん、ごめんなさい、保険に関しては色々と別の考えがあるので今回ご紹介いただいた保険商品はたぶん(と言うよりもおそらく9割以上の確率で)契約はしないと思います・・・!
【今週の一冊】
ここ数週間、北朝鮮関連のニュースが放送通訳現場でもたくさん出てきます。ミサイルや金正男氏に関するものが大半です。私が子ども時代に持っていたパスポートには、「北朝鮮以外の国において本パスポートは有効である」という旨の記述がありました。その文章は幼い私にとってインパクトが強く、北朝鮮という近くて遠い国はどのような場所なのだろうという思いを抱き続けて今に至っています。
どの国であれ、テレビやラジオ、新聞などから見聞きする様子は、レポーターがとらえた一側面にすぎません。事件があればその文言から怖い印象を受けるでしょうし、自然災害や戦争などの話題であれば心が痛みます。ニュースというのはそもそも明るい話題よりも事件性・社会性のあるものが取り上げられます。そこから垣間見るイメージが私たちの中でその国に対するステレオタイプと化していくのです。
けれども私は普通の人々の暮らしにとても興味を抱きます。どういった生活を営んでいるのか、街の様子や空気はどのようなものなのかに惹かれるのです。ニュース映像の場合、一瞬で画面は移り変わりますが、カメラが捉えた写真の場合、見る側は様々なものに意識を向けることができるのです。
今回ご紹介する一冊も、そのような北朝鮮の日常をとらえた写真集です。北朝鮮の場合、世話人の付き添いの元で撮影を進めますので、自由気ままにあちこちを写すことは難しいかもしれません。それでも写真家である著者の初沢氏は人々の素の部分に限りなく近づこうとしたのがわかります。
平壌市民のファッション、飲食店内の様子、かつて日本で使われていたと思しき市バスの車両、たくさんのハングル文字など、ページをめくるごとに人々の日常がわかります。
どのような国であれ、そこには普通の生活を切望する人々がいます。北朝鮮だけでなく、シリアも中東も、です。放送通訳現場で出てくる国の様子を単に言語変換するのではなく、人々に思いを馳せて訳したい。
そう私は思っています。
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