INTERPRETATION

第3回 ハーフマラソンで得たもの

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

11月の10キロマラソンに引き続き、12月上旬にはハーフマラソンに出場しました。私にとって生涯2度目のハーフマラソンです。昨年と比べてトレーニング量が減ってしまい、かなりchallengingなレースになるだろうなという心境での参加でしたが、無事完走することができました。

前回の10キロマラソンでは自分なりに3つほどテーマを決めて走りました。そこで今回のハーフマラソンでも「走りながら何か3つ、自分にとって柱となるものを考えよう」と思いました。

ハーフマラソンはフルマラソンの42.195キロの半分。つまり、およそ21キロの距離を走ります。10キロマラソンの2倍強の長さです。途中でばててしまわないか、けがをしたりしないだろうかと不安な気持ちもありました。けれども昨年の2時間6分を1分でも上回れば大成功と考え、ひたすら走り続けました。

180分ほどの間ただただ足を動かし、考え続ける。こうしたことは日常生活ではなかなか体験できません。机上であれば考えを整理するためにメモをとれますが、マラソンの場合、頭の中で考えが思い浮かんでは消えていくという作業の繰り返しになります。それでもゴールラインに到達するころには、次の3つが自分の中で「今回のレースで学んだこと」として定着しました。

1点目は「何事においてもバランスを考えること」です。マラソンの場合、頭だけで考えていては走れません。かといって、足だけを動かしていてもすぐにふくらはぎや膝が悲鳴を上げてしまいます。腕を振ったり姿勢を正したり、体の軸を意識したり呼吸を整えたりするなど、日ごろの食生活や睡眠などを含め、バランスが求められます。一方、これは英語学習も同じです。たとえばシャドーイングばかりでは飽きてしまいますし、文法ばかりに取り組んでいても話す力は伸びません。何事も自分の五感をフルに活用しながら、バランスのとれた取り組みが求められるのだと思いました。

2点目は「周囲への感謝の気持ち」です。今回のハーフマラソンは冬晴れとは言え気温は冷たく、沿道で応援してくださった地元住民の人たちはマフラーをしたり手に息を吐きかけたりしながら、参加者への声援を送り続けていました。貴重な日曜日にわざわざ寒い中、外に出てエールを送ってくれたのです。もし私だったらどうでしょうか?「たまった新聞を読まなくちゃ」「子どもたちの宿題を見ないと」「ようやく家の掃除ができる」などなど、「自分中心」になってしまったと思います。これまでのレースではあまり意識しなかった沿道の応援でしたが、今回は途中のコースで応援者の姿が少なくなった途端、私の走行ペースはガタ落ちになってしまったのです。いかに周囲の励ましが貴重であるか、ありがたいかがわかりました。応援してくれる人への感謝。これはマラソンに限らず、日常生活でも意識していきたいと考えています。

最後は「未知への挑戦」です。今回のレースではコースの終盤戦で足と上半身と脳がバラバラになるような感覚にとらわれました。10キロマラソンの時は自分で最後まで意識的に体を動かせましたが、今回は「何だかわけが分からない未知への挑戦」という感情が出てきてしまったのです。そのような心境になると、見知らぬ分野への不安感や恐れなども出てきます。けれどもそれをあえて体験することも、次なる世界に踏み込むための貴重な体験だと改めて思いました。

このたび出場したマラソンでは、以上の3点を自分なりに感じ取りながら、自分の時計で2時間3分でゴールインできました。正式な記録証は数週間後に郵送されるので、今から楽しみです。

おしまいにもう一つ。この大会では伴走者と共に走る目の不自由な方が何名もいらっしゃいました。本格的にトレーニングされている方もいらしたようで、スピードも私よりはるかに早く、何組もが私の横を通り過ぎていきました。そのたびに私も数秒間、目をつむって走ってみたのです。けれども5歩ぐらい走ると怖くて目を開けてしまいました。自分が同じ立場だった場合、出場する勇気が自分にはあるだろうか。そんなことも考えた今回のハーフマラソンでした。

(2010年12月20日)

【今週の一冊】

「世界年鑑」共同通信社、2010年

あと10日ほどで年末。ということで今回ご紹介するのは共同通信社が毎年発行している「世界年鑑」。3月に書店にお目見えするので、2011年版はあと3か月で刊行されることになる。

本書は世界各国のデータベースであり、その国の概略や略史、政治・外交・対日関係や軍事、識字率や平均寿命などが掲載されている。今の時代、ウィキペディアや外務省のサイトで同様の内容を知ることはできる。しかしページをパラパラとめくっている「モザンビークの女子の識字率は33%」「太平洋のツバルには軍隊がない」「ブルネイの輸出90%以上が石油・天然ガス」など、興味深い内容がどんどん目に入ってくる。ざっと見渡すということができるのも、紙の書籍ならではの強みだ。

私は放送通訳者になって以来、本書を愛読している。通訳者に限らず、世界情勢に関心があれば大いに役立つと思う。テレビの傍に置いておき、国際ニュースに接するたびにページをめくれば、時事問題力アップにもつながるはず。国旗のカラーページや世界標準時(時差)一覧、主要統計やノーベル賞受賞者リストなどもあるので、資料としてもいろいろな場面で活用できる一冊だ。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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