第243回 少しだけ視点をずらす
お正月気分が続く中、日本では1月2週目に連休があります。年末年始休み明けの仕事で少し疲れた人にとってはありがたい3連休ですよね。一方、大学などは近年、文科省の指導により15週間の授業が標準となり、大学によってはハッピーマンデーも通常の月曜授業です。私が学生のころは休講や祝日で授業がなくなると喜んだものですが、最近は教わる側も教える側もまじめになっているような印象です。
昨年同様、今年も仕事と家庭のバランスを工夫したいと思います。去年は家事、とりわけ掃除や洗い物などに取り組む際、いつも時計を見ては自分なりの制限時間を設けていました。たとえば台所に立ち、「さあお皿を洗おう」というとき、目の前のお皿の量を見てから壁の時計に目をやります。「よし、この分量なら5分で洗い終えよう!」と自分の中で決めるのです。できる限り制限時間内に終えることが目標となり、無事終了すると達成感でいっぱいになりました。お風呂場の掃除や片づけなども、こうした方法をとっていたのですね。
最初のうちはレース間隔でできるこの作業が快感でした。けれども今年に入ってから少し考えを変えてみたのです。きっかけは曹洞宗住職・枡野俊明氏の本でした。詳しくは「今週の一冊」でご紹介しますが、本書を読んで「イヤイヤ取り組むこと」の不毛さを感じたのでした。
私の場合、掃除や片づけ、洗い物などは決して嫌いな作業ではありません。けれども制限時間を設けることで、「イヤだからさっさと片付ける」という思いが潜在的に沸き上がっていたようです。「本当はもう少し隅々まできれいに磨きたいなあ」と思ったとしても「いや、制限時間が優先!」となり、気になる箇所をないがしろにしたまま終えていました。
枡野氏は「掃除とは心を磨くこと」と説いていますが、そのような観点でとらえるようにした結果、「きれいに仕上げることで心が豊かになる」と思えるようになりました。ですので最近はあえて制限時間を設定していません。代わりに「ここを磨き上げたらきっと気分も良くなる」と思うようにしています。
たとえば入浴後には浴槽や壁にたくさんの水滴がつきますよね。最近は換気扇が進化していますので、そのままにしておいてもきれいに水滴が乾くお風呂場もあるそうです。残念ながら我が家の場合は従来のバスルームですので、水滴を何とかしない限り、放っておけばカビが生えてしまいます。以前はその水滴をふき取るのも面倒だったのです。
そこで考え方を変えてみました。一日の終わりで疲れていたとしても、水滴をふき取ることが次につながると考えるようにしたのです。具体的には、「水滴一つ一つは今日自分が一日取り組んだすべての労働」と思うことでした。
仕事や家庭、勉強など一日を振り返ればたくさんの細々したものに誰もが取り組んでいると思います。「一つの水滴」を「自分がその日に取り組んだ一つの作業」と見立てるのです。すべてを拭き終えれば何百という水滴の粒がきれいになります。そうすることで自分が一日かけて取り組んだ仕事や勉強、家事など細かい一つ一つの作業すべてが報われたと考えます。
要は少しだけ視点をずらすことで「やらされ感」を脱せられると思います。私は水滴を拭きながら「今日はこれも頑張った」「料理の味は今一つだったけれど、次への教訓を得た」など、心の中でその日一日を振り返りながら明日への活力を見出そうとしています。
(2016年1月11日)
【今週の一冊】
年末と言えば大掃除ですよね。私の場合、当初の予定では「掃除」をしようと思っていたのですが、結局のところ、昨年末は「大片づけ」で終わりました。拭いたり磨いたりという作業よりも、不用品を処分することに終始したのです。もう少しあちこちピカピカにしたかったという気持ちはありますが、その一方で、要らないものを大幅に減らせたのでほっとしています。
今回ご紹介するのは曹洞宗徳雄山建功寺住職を務める枡野俊明氏の一冊です。枡野氏は2006年に「ニューズウィーク」で「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれています。
この本との出会いは、乗換駅構内にある小さな書店です。私は本屋さんがあるいとつい覗きたくなります。この日も乗り換え時間5分という短い間のことでした。本のオビには「物を持たず、豊かに生きる。」と大きな文字で書かれています。ネット書店で購入する際、場合によってはこのオビが画像で掲載されていないこともあるのですよね。だからこそ実際に自分の足で探したり、偶然の出会いを楽しんだりというのも大事なことだと思っています。
英語学習にせよ掃除にせよ片づけにせよ、イヤイヤやることほど不毛なことはありません。せっかく取り組むのであれば楽しく行う方が心も幸せになります。枡野氏も掃除については「心を磨くこと」だと述べており、お寺の場合は雑巾や箒さえあれば十分だと記しています。「掃除=面倒」であるがゆえに今の時代は便利グッズや各種洗剤が店頭に並びます。けれども根本的な考えを変えさえすれば、そうした便利品なしでも取り組めるということなのです。
本書は目次が充実しているので、どこからでも読むことができます。小説であれば冒頭から読む必要がありますが、実用書の場合、真ん中から読んでもとがめられません。現に私など巻末から前にページをめくりながら読むこともあるほどです。今回の一冊も気が向いた個所から読み、そこに書かれていることを日常生活に応用できる作りになっています。
「掃除は自ら体を動かし、時間をかけて行うもの。洗剤や道具がやってくれるわけではありません」と語る枡野氏の考えは、私の心に大きく響きました。英語の勉強も口コミで高評価の教材やアプリが売れています。しかし結局は自分の手で英文を書き、口を動かして英語を発し、耳で英語を聴いて目で英文を読むという作業が必要なのです。自ら体を動かして時間をかけることは同じだと私は考えます。
今年こそ片づけや掃除と向き合いたい方にお勧めの一冊です。
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