INTERPRETATION

第232回 自分を疲れさせない

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

私の読書というのはどうも一定化していないようです。かつては大型書店のすべての階をくまなく歩き、気になった本は片端からかごに入れては「大人買い」をしていました。あまりの量に店員さんが「宅配もできますよ」と勧めて下さることもよくありましたね。けれども私としてはたくさんの本の入った紙袋を手にしてカフェへ直行するのが何よりの楽しみでした。お気に入りのラテを注文してから、購入した本の頁を次々とめくっては幸せを感じていました。

「いました」と過去形にしたのは、最近そうした買い方をしなくなったからです。何がきっかけだったかは定かではありません。ただ何となく「ランダムに読むのをやめよう」と思ったからでした。日々の時間を大切にしたい、だからこそ目にする活字も厳選したいと考えるようになったからかもしれません。

もう一つ、理由があります。それは最近の出版物における傾向です。書店の目立つところに陳列されている書籍の多くが「デキる人」「美人」「エグゼキュティブ」「たった一日で」などなどのタイトルとなっています。不確かな時代だからこそ他人と差をつけて生き残らねばという思いがそうした言葉につながるのでしょう。けれどもそれと同時に「もう悩まない」「群れない」など、マイペースをうたうものもあります。こうした書名が同時進行で目に入ってくると「こうすべきだ」という考えと「いや、開き直っても良い」といった思いが混乱するようにも思えてくるのです。

本というのは迷ったときの指針になってくれます。疲れたときの癒しにもなります。ですので書店へ出かけて「こうすれば正解」という考えが両極端から視界に飛び込んで来れば、かえって自分が疲れてしまうと思うのです。せっかく癒しを求めて本を買いに出かけたのに、何だかくたびれてしまったとなると、これも本末転倒のように感じます。

このようなことから最近私はあえて新刊書コーナーへは足を向けず、文庫本コーナーをもっぱら眺めています。文庫になるのは新刊書として売り上げがあり、文庫にしても市場において耐えうる「体力がある本」だと私は考えます。価格もお手頃ですし、持ち運びも楽です。岩波文庫や新潮文庫などの棚を眺めると、古典文学が沢山生き残っていることがわかります。

人の運命はいつどうなるか誰も予測ができません。元気で一生過ごせるという保証もないのです。だからこそ自分で自分を疲れさせるような本に惑わされず、これからも市場で生き続けるような古典や名作に触れていきたいと思っています。

(2015年10月19日)

【今週の一冊】

「成果が10倍上がる!手帳の極意(Gakken Mook 仕事の教科書 Vol.11)」

仕事の教科書編集部、学研マーケティング、2015年

ハロウィーンの飾り付けが店頭で目立つようになると、来年の手帳も売られるようになります。「今度はどんな手帳にしようかな?」「今年と同じものを使おうかな?」などと考える人も出てくる時期ですよね。

私はここ数年、同じ手帳を使い続けています。けれども「もっと良い使い方があれば知りたい」と思うのですね。よって、あれこれノウハウを仕入れたいタイプだと自認しています。そのような時に役立つのが今回ご紹介するような一冊です。いろいろなユーザーが自らの手帳術を紹介しており、とても参考になります。ただ、こうした一冊を読む際に大切なのは、「すべてを取り入れない」ということでしょう。使い方というのはその人その人によって異なるからです。一つでも自分のライフスタイルに合うものが見つかれば万々歳。そのように私は思っています。

本書をめくってみると、誰もが自分なりの工夫をして手帳を使っていることがわかります。いずれも自分の手帳や使い方に愛着を抱き、手帳を通じて自分の人生と向き合っていることも伝わってきます。手帳術というのはもしかしたら使い方そのものよりも、それを通じて私たちがどのように時間と共に歩むかを考えさせるものなのかもしれません。

使い方そのものだけでなく、手帳関連のグッズや新作の手帳も網羅されています。カラフルな写真を眺めるだけでも何だか元気が出てきます。来年から心機一転してギアチェンジしたいという方、マンネリ化した中で新たなアイデアが欲しいという方にも役に立つ一冊です。ちなみにPRになってしまい恐縮なのですが、私も少しだけ出ています。よろしかったらそちらもぜひ。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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